韓国でもプロ野球が1日に開幕した。大邱(テグ)市の球場では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が始球式に立ち…と語ると、いかにも「春らしい話題」と思われるだろう。しかし、韓国のプロ野球はいま、奈落に向かう下り坂にいる。

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での1次ラウンド敗退以降、次々と場外スキャンダルが明るみに出ているからだ。

WBCの1次ラウンドは2勝2敗。ベスト8入りは逃したが、外野席から見れば、「そこそこの成績だった」のではあるまいか。

しかし、韓国の野球ファンには「2013年五輪では優勝した」「WBCでも準優勝したことがある」といった栄光の記憶が強く残っている。だから、WBCで3大会連続して1次ラウンド突破に失敗したことは大ショックなのだ。韓国では「WBC惨事」と言う。

さらに〝憎き日本〟に完敗したことが、ショックを怒りに変えている。

韓国のネットを見れば「こんな連中に、なぜ何十憶ウォンもの年俸を払っているのか。後援企業は手を引け」といった激烈な怒りコメントが多い。代表選手も、打ちひしがれている様子だ。

そうしたなかで、ロッテ・ジャイアンツの若手投手が「児童性搾取物制作容疑」で起訴された。SNSで知り合った少女にヌード映像を送らせたとされる。

どうして、それが検察の知るところになったのか…球場スズメが憶測を重ねるうちに次のスキャンダルが明るみに出た。

起亜タイガーズのゼネラルマネジャーが、配下選手に「有利な複数年契約にしてやるから、契約金の一部を俺によこせ」と要求したのだ。

慢性的就職難の韓国社会では、「俺が頼み込んで就職させてやるから、月給の1割を毎月よこせ」といったことは珍しくない。労組幹部が「楽な生産ラインに回してやるから」、私立高校の教頭が「娘さんを教員として採用してやるから」…枚挙にいとまがない。

ゼネラルマネジャーの要求も、さして珍しいこととは思えない。だが、2回目の話し合いの席で、選手がやりとりを密かに録音していたのは、いかにも「不信蔓延(まんえん)社会」らしい。

ゼネラルマネジャーは「冗談で言っただけ」と弁明したが、起亜は解任処分とした。

解任発表の翌日、今度はソウル中央地検が、韓国野球委員会(KBO)と傘下会社のKBOPの事務所を家宅捜索した。KBOPは、リーグ戦の中継権事業、スポンサーシップ契約や公式後援企業との関係を握る。家宅捜索は、実力幹部がテレビ中継の運営会社から金品を受け取り、便宜を図った容疑だった。

さらに、現役選手が絡むオンライン不法賭博の内定が進んでいるとの報道もある。

開幕戦での始球式は大統領が出ることが慣例になっている。だから、尹大統領も白球を握り、夫人とともに観戦した。

しかし、韓国プロ野球の1試合当たりの平均観客動員数は1万人に達していない。そこにスキャンダルが続々では、韓国の野球人気はさらなる低落を免れまい。栄華を誇った半導体輸出のように…。 (室谷克実)

https://news.goo.ne.jp/article/fuji/world/asia/fuji-_society_foreign_2ZNWPRW2HJJJ5EYVJPRIMW2LJY.html