「カクカクした声に」 娘の音読ストレス  

 朗読をするときは、ほかの子どもの倍以上の時間がかかる。アクセントのつけかたが自己流で、文節も意味と関係ないところで区切っているという。

 娘に聞くと、「スラスラ読めなくて、カクカクした声になってしまう。読めないところは、つっかえて、ずっと黙ってしまう」という。教室で注目を浴びてしまうことも、大きなストレスとなっていた。

 米軍基地の近くに住んでいたこともあり、「国際性を育てたい」と2歳から米国人向けの保育園に通わせていた。そのせいか娘は、日本語より英語が得意になっていた。

 手紙をくれたのは、通っていた私立小学校の日本語補習クラスの先生だった。

 先生に勧められて上智大学に出向くと、ディスレクシアの研究者で言語聴覚士の上智大学の原恵子准教授(当時)がいくつものテストを用意して待っていた。

 知能検査の結果、知的な発達の遅れはないことがわかった。一方で能力の凸凹が大きく、言語能力は高いが、情報処理能力のスコアは低かった。

 読み書きの検査では、2年生レベルの漢字は読むことはできたが、書けなかった。習ったばかりの3年生レベルの漢字は、読むことすら難しかった。

 文字や単語をどれぐらい正確に読めるか、流暢(りゅうちょう)に読めるかを調べる検査もスコアが低かった。

 「たまご」という言葉を聞いて、逆さまに言ったり、「たまご」から「た」を抜いて言ったりする、などの課題でも苦戦した。

 「ディスレクシアの可能性が高いです」

 原さんは、母親にそう告げた。

「自分はバカじゃなかった」 ホッとした娘

 ディスレクシアは学習障害(LD)のひとつで、知的発達に遅れはないが、読む、書く、計算する、推論するなどの能力のうち、特定の分野が苦手な障害だ。とくにアルファベット語圏に多く、米国では1割前後の人に障害があると言われる。日本でも約2%の児童に診断の必要があるという報告がある。

 念のため、英語の読み書きの評価をしているNPO法人EDGE(エッジ)にも相談したが、ここでもディスレクシアという判断だった。

 「やはりそうだったか」。母には米国人の友人も多く、ディスレクシアの知り合いが何人かいた。

 娘に障害のことを説明すると、娘はホッとしたように言った。

 「自分のせいじゃない。自分がみんなよりバカだというわけでもないんだ」

 原因がわかったのだから、次は娘の学習環境を支えるために動こう。母は、原さんに依頼して、小学校の担任あてに手紙を書いてもらった。

 「単語の読み書きは遅かったり不正確だったりするが、物事を理解したり推論したりする力は十分にある。理解力を十分に発揮するためには、特性に配慮した合理的配慮がなされることが望まれる」

 「知的好奇心が旺盛で、興味の所在がはっきりしている。それが生かせるように、ぜひディスレクシアの特徴を理解してほしい」

 声に出して読む朗読などの負担を減らして文章の内容理解に集中できるようにすること、質問を読み上げて尋ねる方が本人にとってはわかりやすいことなども提案された。

 発達障害の子ども向けに、タブレット端末で内容を読み上げる教科書もあり、活用するのも一案であることも申し添えた。

 母親が学校と掛け合った結果、担任は「ご要望に沿います」と応じてくれた。国語は「漢字が書けなくても、読めればいい」、算数の計算プリントは「半分でも、できる分だけ答えればいい」という方針に切り替わった。