環境が変われば娘も変わる 思った矢先に…

 5年生になる春、コロナの感染拡大で登校する日が減った。娘にとっては渡りに船だった。タブレット端末を利用した授業が導入され、黒板の文字が読みきれなくても、板書ができなくても、乗り切れるようになった。

 父も、娘の勉強をサポートするようになった。「パパの算数教室」を開き、いつも30点台だったテストが78点まで上がった。担任はとても喜び、娘もやる気になった。

 周りの環境が変われば、こんなに娘は変わるんだ――。変化を目の当たりにした母は、中学校でも娘の特性を理解してもらいたいと、進学予定の付属校の校長と話し合いの場を持った。

 だが、返ってきたのは思いがけない言葉だった。

 「皆と同じにやってもらいます。義務教育だから中学校は卒業はさせてあげます。でも高校は単位がとれなければ落第です。どうされますか?」

 校長の言葉を聞いた瞬間、思った。

 「もう無理だ」

 通信制の学校も検討したが、日本語の壁があり難しかった。途方にくれていたところ、家から通える距離にあるインターナショナルスクールが1校だけ見つかった。

 多様な子どもを受け入れるインターナショナルスクールは、発達障害の子の受け入れに慣れているところが多い。日本人でも試験に通れば、入学することができる。

 ダメ元で校長あてにメールをすると、すぐに返事がきた。

 「とりあえず面談に来ませんか?」

「ここに通いたい」笑顔を見せる娘の選択

 ポロシャツ姿で出迎えてくれた校長は、娘に「手先は器用?」と聞いてきた。学習障害があると、手先が不器用な子も多い。娘はちょうど、紙粘土で作るミニチュアのお菓子づくりにハマっていた。

 説明すると、校長は「たぶんマイルドな学習障害ですね。学年には何人もいます。先生も対応に慣れているから、受験しにきてください」と言ってくれた。

 その語りかけに娘は感激して、「ここに通いたい」と意欲を見せた。

 面接と英文読解、エッセーの試験を通り、昨年4月、晴れて入学した。

 学校では、全員がパソコンを手元において授業を受ける。板書の内容が手元の画面で確認できるうえ、文字や行間を拡大することができる。文章のスペルチェックも、パソコンが助けてくれる。

 小学校では劣等生だった娘が、今は「学校が楽しい」と笑顔を見せるようになった。

 テストではスペルミスもよくあるが、学校側はつづりが多少間違っても意味が理解できていれば「○」にしてくれる。

 母は思う。

 「日本語が苦手でインターナショナルスクールを選ぶなど、我が家は相当な特殊ケースだと思います。それでも、ディスレクシアで困っている子どもは大勢いるはずで、診断と支援への理解がもっと広がって欲しい」

 娘はいまも九九をマスターしていない。それでも、数式には幾通りもの解の導き方があり、自分に合う方法で答えを出せばいい、そんな風に思えるようになってきた。

 中学1年生の課程を終えて受け取った通知表は、予想を上回る好成績だった。

 以前は「ひたすら書くだけだと頭に入ってこない」と言っていたが、近頃は苦手科目にもやる気がでてきた。学校ではランチを早めに切り上げて、漢字練習の時間にあてるようになった。

 理科が好きで、鉱物や宝石に興味を持っているため「何かを研究するのが面白そう」と、将来を考えるようになった。

 笑顔が増えた娘の成長をまぶしく感じながら、母はこれからも見守っていこうと思っている。