シンガポールで26日、大麻の密輸を共謀した罪で死刑判決を受けていた男性死刑囚の刑が執行された。家族や活動家、国連などが温情措置を嘆願していたが、聞き入れられなかった。

タンガラジュ・スピア死刑囚(46)は、2013年にマレーシアからシンガポールに大麻約1キログラムを「密輸する陰謀に関与し、教唆した」罪に問われ、2018年に有罪判決を受けた。

シンガポール東部のチャンギ刑務所前に集まっていた家族によると、同死刑囚は26日未明、同刑務所で絞首刑となった。

死刑反対活動家のキルステン・ハンさんはBBCに、「家族は最後まであきらめないと言っていた」と話した。「家族は事件や証拠について、まだ多くの疑問が未解決だと訴えている」。

活動家らは、スピア死刑囚が薄弱な証拠で有罪にされ、訴追時には法的サービスの利用が制限されていたと主張した。

これに対し当局は、同死刑囚の死刑は正当な手続きを経たものだったとし、裁判所に疑問を呈した活動家らを批判した。

シンガポールの違法薬物に関する法律は、世界で最も厳しいといわれる。密輸の罪で有罪となれば強制的に死刑とされ、運び屋にはそれより軽い刑が適用される。

同国では昨年、薬物関連で有罪となった11人の死刑が執行された。その中には、ヘロインを密輸した知的障害者も含まれていた。

シンガポールは、こうした法制度は薬物犯罪の抑止力として必要だと主張している。一方、活動家らは、これらの法律や死刑制度は周囲の国々にはみられないと指摘している。

隣国マレーシアは今月、死刑の犯罪抑止効果は大きくないとして、強制死刑を廃止した。世界の多くの国は大麻を処罰の対象から除外しており、タイは売買を奨励している。

スピア死刑囚の家族や活動家らは、刑の執行直前まで判決の見直しを求めていた。ハリマ・ヤコブ大統領に手紙を送り、温情措置を嘆願した。

国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)も25日、シンガポール政府に死刑を「早急に再考」するよう呼びかけ、死刑は国際的な規範に違反すると述べていた。

イギリスの富豪で活動家のリチャード・ブランソンさんも、死刑執行の停止と事件の再調査を求めた。

しかし裁判所は25日、これをはねつけた。

同死刑囚は、薬物の所持や密輸の現行犯として逮捕されたわけではなかった。しかし検察は、彼が密輸を調整したとし、運び屋が使った二つの電話番号から彼にたどり着いたとした。

裁判で同死刑囚は、事件関係者と連絡を取っていないと主張した。電話番号の一つは紛失した携帯電話のもので、もう一つは自分のものではないとした。

控訴審でも裁判官は検察側の意見に同意し、死刑が確定した。

活動家たちは、同死刑囚がタミル語の通訳を十分に利用できなかったと主張。さらに、家族が弁護士を確保できなかったため、最後の控訴審は独りで臨まなければならなかったと訴えていた。

シンガポール当局は、同死刑囚が通訳を要求したのは裁判の間だけで、それ以前の要求はなかったと説明。裁判中も弁護士を利用することができたとした。

シンガポールで死刑が執行されたのは今年初めて。

非政府組織ハーム・リダクション・インターナショナル(HRI)によると、シンガポールは、薬物犯罪で死刑を宣告している世界35カ国・地域の一つ。

経済協力開発機構(OECD)加盟国では、薬物犯罪に対して死刑を維持しているのはアメリカと韓国だけだが、両国では過去5年間、そうした死刑は執行されていないという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9015b74df0a3705849108dc31f2aabbba72824c6