突然、仁藤さんが足を止めた。彼女の視線のその先に、キャリーバッグを手にした少女が立っていた。不安げな表情と、夜の冷気を避けるようにすぼめた肩が、“場慣れ”していない空気を全身から発散していた。

 仁藤さんは、すっと少女に近づく。

「ごはん、食べてる?」

 唐突な問いかけに、少女は戸惑いの表情を見せる。

「女性だけでやってる無料のカフェがあるんだけど、よかったら来てみる?」

 えっ、えっ、何なの? 少女の胸の中に渦巻いているであろう疑念と興味が、少し離れた場所で見ているだけの私にも伝わってくる。

 数分後、少女はキャリーバッグを転がしながら、仁藤さんの後をついていった。

 どうやら「推し」のホストと待ち合わせの約束をしたものの、すっぽかされたらしい。