中山 編集長になって、どんなことを変えたんですか?

鳥嶋 編集長なんて現場仕事は半分で、残り半分は社内政治。上をどうやって説得するか。部数ばかり気にして、「マガジンに勝った、負けた」だのに一喜一憂していた。そのプレッシャーに押しつぶされそうだった編集部に、部数に変わる新しいモチベーションが必要だった。そもそも何百万部突破、なんて読者からしたら何の関係もない話だしね。

そこで部数じゃなくて、部署の利益だ、と。コミックもマーチャンダイジングも合わせてトータルで利益を上げているかどうかで判断すべきだ、という形に変えていきました。

中山 そして『マガジン』をベンチマークからはずすんですよね?

鳥嶋 そうです。ライバルは『マガジン』じゃなくて『コロコロ』だ、と。マガジンは編集が強く手を入れてストーリーを作っていく。キャラクターを作る雑誌でいうと、むしろジャンプの競合はコロコロだった。小学生の低学年から高学年の情報をキャッチしてメーカーとタイアップしながら作っていくコロコロは、「編集の手がみえる」という意味で小学館で唯一の雑誌だった。

マンガはジャンルじゃない
中山 よくおっしゃってますよね、「成り行きで作るサンデー(小学館)、編集が強く物語で引っ張るマガジン(講談社)、作家ととことんまで打ち合わせしてキャラクターを作るジャンプ(集英社)」と。

鳥嶋 『コロコロ』の先に、小学校卒業くらいからのユーザーをそのままジャンプが押さえて離さなければ、ジャンプの部数は今後安泰だと思った。前の編集長時代の企画は全部捨てて、「もう企画はないよ。あとは新しいのを自分たちで作っていくしかないよ」と、新人作家を発掘するように変えていった。

中山 そこから『封神演義』『テニスの王子様』など女性向けも生まれて読者層にも変化が見えた。『ONE PIECE』『NARUTO‐ナルト‐』など現在までのジャンプを支える次の作品群もこの時代に生まれています。社内政治ということでしたが、逆に編集長として不本意だけどやらないといけないジャンルなどもあったのでは?

鳥嶋 会社って理不尽なものでね。社長から呼ばれて「探偵モノをやれ」と言われたことはありましたね。マガジンには『金田一少年の事件簿』があり、サンデーには『名探偵コナン』がある。僕がずっと拒んでいた話で、マンガはジャンルじゃないんだ。魅力的なストーリーとキャラを描けるかどうかだけだから、トップダウンでジャンルだけ合わせて作っても当たるわけがない。

でも他部署で社長に入れ知恵したヤツがいたんだよね。言うことを聞くしかなくなって、編集部に戻ってきてゴミ箱を蹴っ飛ばしました。それで作った『少年探偵Q』は、やっぱり当たらなかった。

会社ってそんなものです。雑誌のことなんか考えていない。それは今もって同じ。本当に数字を読める経営者ならいいんだけど、中途半端に解釈して、雑誌のことを何も考えずに押し付ける。https://news.livedoor.com/article/detail/24135042/