中国で「稼げなくなった」化粧品メーカーの大誤算
定番商品が売れず、新規制で技術流出リスクも

有望視されてきた中国市場に暗雲が漂っている。「最悪の場合、撤退も考えなければならない」。中国向けの化粧品販売に注力する日本の中小メーカー幹部は危機感を募らせる。中国市場で戦い続けるために、3つの新たな課題が急浮上している。

1つ目が現地メーカーの下克上だ。ECで大セールが開催された2022年11月の「独身の日」、スキンケアランキングで異変は起こった。

トップ3はロレアル、エスティローダー、ランコムの3大欧米ブランドが守ったが、現地ブランドのPROYAが5位へ急浮上。PROYAは2022年の売上高14億元(約266億円)と前期から倍増させた。2021年からWINOMAも6位をキープする。日本勢で唯一トップ10にランクインしている資生堂は5位から7位に後退し、花王やコーセーは20位以下となっている。

刺激がないと売れない

「日本メーカーはかつてインバウンドで売れた定番商品ばかりで、目新しさに乏しい。一方でPROYAは、美容液の成分を濃縮させた商品などで消費者を刺激して成長している」と中国向けのSNSプロモーションや市場調査を行う中国市場戦略研究所の徐向東代表は指摘する。新商品の有無が勝敗を分けた格好で、2023年も波乱の展開が予想される。

2つ目がマーケティングだ。「世界一のEC大国」と呼ばれる中国での戦い方は、日本と大きく異なる。SNS上で多くのフォロワーを持つインフルエンサーが動画やライブコマースで商品を紹介し、購入を誘導する形式が主流となっている。

スマートフォンやPCでライブ配信を視聴すると、商品のリンク先やクーポンなどが表示され、そこから購入できる。スマホ版テレビ通販のようなイメージだ。小売店でも偽物が販売される可能性がある中国では「誰から買うか」が非常に重視される。こうした中、化粧品の成分や使い心地などを伝えてくれるインフルエンサーが支持されている。

多くの化粧品メーカーがインフルエンサーに頼ってきたが、大量のフォロワーを持つ人ほど、影響力を武器に大幅な値下げや高額な手数料をメーカーに要求するようになった。「過度な値引きで採算が悪化し、定価ではほとんど売れないブランドが多い」(化粧品メーカー幹部)。

さらに「高い目標を掲げて拡販を優先した結果、転売の安売り品が出回ってブランド価値が低下してしまった」(資生堂関係者)と悪循環に陥っている。前出の徐代表は「根本的な問題は、中国人消費者の理解が十分にできていないこと。インフルエンサーや芸能人に拡販を一任したままでは、値引きを要求され続けジリ貧になるだけだ」と警鐘を鳴らす。

そして3つ目が、中国政府による化粧品の成分開示義務の強化だ。

2021年1月に「化粧品監督管理条例」が施行され、ルールが厳格化された。順守しなければ2023年5月1日以降、中国向けの一般貿易による販売を一切禁止するという内容だ。しかしメーカーの対応が難航して業界団体などが働きかけたことで、2023年12月末まで延長されている。

2024年1月からは全製品を対象に、化粧品成分を0.1%単位で含有量の多い順にラベル表示することが義務づけられる。中国に存在しない独自成分の場合、新しく登録する必要もある。

続く
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