有事を念頭に自衛隊の行動を律している自衛隊法などの法制を見ると、根本的な問題点がある。

一般に軍隊は、海外において行動するために国際法的な「ネガティブ(やってはならない行動)」で行動規定されるのに対して、自衛隊は警察と同じ国内法的「ポジティブ(行ってよい行動)」で行動規定されている。このために新たな行動を取る場合には、そのたびに根拠規定を作らなければならない。

これは自衛隊の前身が警察予備隊であり、その根拠法令を策定する際に警察法などを参考にしたこと、戦後の国民感情から武装組織に厳しい行動規制が求められたこと、専守防衛から国内作戦を前提にしたことなどからだと思われる。

自衛隊は基本的に法令にないことはできない。行ってよい行動の事例にない場合には、いちいち政府に確認し許可をもらわなければ動けない。諸外国の軍隊では、法令で制限されていない限り自由に行動ができる。自衛隊は運用の柔軟性に欠けた組織である。

安保法制(事態認定)も複雑であり、同盟国の米軍にはすぐには理解できない。例えば、「台湾有事」が始まり、米海軍が東シナ海で作戦行動に入り、自衛隊が後方支援などを行う場合には、日本政府は「重要影響事態」に認定する手続きを行い、海上自衛隊に後方支援を命ずる。

次に、米軍が攻撃されるような事態になれば、日本政府は米艦防護のために「存立危機事態」の事態認定を行い、海上自衛隊に防衛出動を命じる。この段階で、日本は集団的自衛権を行使する。

さらに事態が進み、海上自衛隊の艦艇や航空機などが攻撃される状況になれば「武力攻撃事態」に認定し、全自衛隊に防衛出動を命じることになる。事態内容により認定と行動の根拠・命令が変化する。

米軍であれば台湾海峡北部の警戒監視を命ず」とだけ下令し、出動した艦艇は臨機応変に行動(戦闘は交戦規定による)する。隣で共同作戦を行っている海上自衛隊は事態認定の後、逐次命令を受けての行動となる。米海軍にはイライラする手続きであり、問題が起これれば共同作戦に致命的な打撃となる。

もちろん護衛艦が出動する際には、海上自衛隊は出動する指揮官に包括的な行動基準を与えて、円滑な共同作戦ができるように努めるはずである。しかし、日本の法制度上から見ると、複雑な手続きを取らなければ前に進めない状態であることは変わらない。

「日本有事」に直結する「台湾有事」を考えれば、安保法制や自衛隊法などを抜本的に見直す時期ではないだろうか。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c101cb80363b35c3304b2df74c7321d1360a2125