「ヘイ、ミスター! 1ドルでいいから恵んでくれよ。(ウクライナ東部の)ドネツク州から来たんだ」

 スーパーからの帰り道、バスから降りようとすると、客に盛んに金を無心する20歳前後の若者がいた。記者が目を留めると「この外国人はいける」とでも思ったのか、片言の英語を交えて大声で呼びかけてきた。

ウクライナ東部情勢の報道はロシアでも減り、人々の関心も薄れつつあるようにみえる。若者は痩せて服装もみすぼらしく、2リットル入りの安いビールのペットボトルを抱え、明らかに酔っていた。隣には恋人とおぼしき女の子が目を伏せながらじっと立っていた。

 ウクライナ軍の徴兵が嫌でロシアにきたといい、「一度しかない人生なんだ。当然だろう」と訴えた。ロシアでは移民の労働規制が厳格になっており、思うような職を得られない。知り合いを通じ、テレビ番組のエキストラとして出演しているが、生活できる収入ではないという。彼は証拠としてスマートフォンで撮影した出演者とのツーショットを次々と私に見せてきた。

 ロシアには紛争を逃れたウクライナ東部住民が100万人超いるとされ、労働事情も確かに悪い。しかし彼女の前で物乞いのようなまねをするとは。彼に1ドルをあげる気にはとてもならなかった。

https://www.sankei.com/article/20151124-7GHYCVCPPVJONNDX4BWILJ4QD4/