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どうしてこうなった?「禁止」「やめて」看板が24枚もある公園 開園した6年前は0枚だったのに

「近くの公園は、注意書きの看板だらけで入るのに躊躇ちゅうちょする。これで楽しく遊べるのだろうか」。東京都練馬区の飯沢いいざわ文夫さん(73)から、本紙の「ニュースあなた発」に情報が寄せられた。この公園では、1枚もなかった禁止看板が、開園から6年で24枚にまで増えていた。なぜ禁止だらけの公園になってしまったのか
◆8歳も疑問「こんな数え切れないほどいるの?」
 「すべりだいを かけあがらないで」「夜間の利用はお控え下さい」
 飯沢さんが指摘する「いずみの里公園」(練馬区)は住宅地の一角にある。テニスコート10面分ぐらいの広さに、禁止事項を書いた看板があちこちに立っている。A3用紙サイズに9行にわたってぎっしりと注意書きが記された看板も。バイク禁止の看板は3枚あった。サッカーボールで遊んでいた男児(8つ)は「こんな数え切れないほど看板がいるの?」とあきれていた。

 公園を管理する区西部公園出張所の宮津裕子ひろこ所長は「苦情のたびに看板を立てているので、今、何枚あるか分からない」という。記者が24枚あったことを告げると「それは多い。苦情がなくなれば撤去しようと思っているが…」と歯切れが悪い。
 公園の近くに住む男性(87)は「苦情を言ってきた人に対して『ちゃんと対応しましたよ』という区のポーズでしょ。看板を立てて、どれだけの効果があるのか」と冷めた目で見る。
◆苦情は年3000件…23区最多の公園を抱える練馬
 練馬区には700カ所近い公園があり、東京23区で最も数が多い。年間に寄せられる苦情は約3000件に上る。区によると、コロナ禍で外出を控えるようになってから件数は増えており、苦情対応に多くの時間を割かれているという。
 区道路公園課の小山こやま和久課長は「看板は少ないほうがいいが、まずは苦情に応えることが優先。素早く対応できるし、看板を理由に注意しやすい」と、トラブル回避へ看板頼みになっている実情を口にする。
 関東学院大建築・環境学部(こども環境学)の中津秀之准教授は「禁止看板の多さは、地域のコミュニケーション不足を示すバロメーター。重要なのは住民同士の対話による合意形成だ。もっと住民を巻き込んだ公園運営を考えては」と提案する。
◆苦情があれば住民が話し合う…脱「規制だらけ公園」の動きも
 禁止看板が目立つ公園は練馬区に限らない。かつて本紙の発言欄にも、ボール遊び禁止の看板を見た北区の男児(11)から「友達と楽しく遊ぶためにある公園も、遊べないなら意味がない」との投稿が寄せられた。
 そんな「規制だらけ」の公園から脱却しようという動きもある。
 川崎市は3年前から、禁止していたボール遊びについて、地域の理解が得られれば看板の表記を変更し、周囲に迷惑をかけない条件で遊べるようにした。
 横浜市では、地域住民が公園を管理する「公園愛護会」という住民参加型の公園管理をしている。市内約2700カ所のうち、9割が愛護会の管理だ。
 その一つ「富岡並木ふなだまり公園」(横浜市金沢区)は、いずみの里公園の10倍以上の広さを持ちながら、禁止看板は「水に入ってはいけない」の1枚しかない。
 ふなだまり公園北側エリアの愛護会は10〜80代の36人で構成。会長の高島哲さん(75)は「景観を守るため、禁止看板は立てないようにしている。苦情があれば会のメンバー同士で話し合って解決策を見つけている」と話す。
 練馬区にも同じような「住民自主管理制度」という仕組みがある。申請は自治会単位で、「清掃は週3回」「3カ月ごとに報告書提出」などと参加条件が厳しい。制度ができて20年以上たつが、導入は全体の1割にも満たない。区の小山課長は「自治会の高齢化による担い手不足もあって、なかなか利用が広がらない。住民の声を吸い上げられるような運営をしたいのだが…」とこぼす。