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(略)
2012年、中国の最高意思決定権者の地位に就いた習近平国家主席は、改革開放推進による経済成長より、自らの支配基盤の強化を優先している。22年の党大会では、習氏の側近の多くが最高指導部である「政治局常務委員」に選出された。

23年の全人代(全国人民代表大会)で、習氏の幼なじみであり経済テクノクラート(技術官僚)として高い評価を受けてきた劉鶴副首相(当時)は退任したものの、市民の反発にもかかわらず、上海のロックダウンを実行した李強氏が副首相に選出されたのは象徴的だった。
経済より政治を優先する習氏の姿勢は鮮明に示されたといえる。

今の中国で改革開放への機運は薄れつつある。22年、国有企業の平均年収は民間企業の1.89倍にまで増加した。国家統計局が調査を開始した08年以降で最大だ。
一方、中国の生産者物価指数(PPI)は下落している。それは、在来分野を中心に過剰な生産能力、人員、債務を抱える「ゾンビ企業」が政策などで延命している証拠ともいえる。
その結果、国有・国営企業の高い賃金が常態化しているとみられる。

株価を見る限り、政府による規制が強化された主要IT企業のバイドゥ、アリババ、テンセント(3社はBATと呼ばれる)の成長期待は停滞している。また、20年8月の「三つのレッドライン」(大手企業に対する財務指針)、米欧での金融引き締めによって中国の不動産バブルは崩壊しつつある。

特に、不動産デベロッパーの債務問題は深刻化している。土地の譲渡益の減少やゼロコロナ政策の経費増加によって地方政府の財政も悪化し、「融資平台」の信用リスクも高まっている。
民間企業の成長期待が低下し、国有・国営企業が厚遇されるという状況は、改革開放とは対照的だ。

近年まで、改革開放以降の高度経済成長の「貯金」に支えられてきた中国。しかし今、その貯金と経済成長を実現する余力はなくなりつつあるといえるだろう。