帝王切開で生まれた赤ちゃんは、産道を通るときに母親の膣(ちつ)から細菌を獲得することができないため、赤ちゃんのマイクロバイオームに影響が及び、将来の健康や発達に問題が発生する可能性が指摘されています。新たな研究により、母親の膣分泌液を赤ちゃんに塗る「膣シーディング」が、赤ちゃんのマイクロバイオームを整える有効な方法となり得ることが示唆されました。

中国の南方医科大学の研究チームらは、帝王切開で出生した32人の新生児の唇、皮膚、手に、出産の2時間前に母親から採取した膣分泌液を塗布する実験を行いました。赤ちゃんは約15秒間にわたり綿棒でこすられ、塗布後12時間は入浴を行いませんでした。また、帝王切開で生まれた別の36人の赤ちゃんに生理食塩水が同じように塗布され、これが対照群とされました。

6週間後、膣分泌液を塗布された赤ちゃんのうんちには、生理食塩水でこすっただけの赤ちゃんよりも成熟した菌が多く含まれており、また母親の菌も含まれていることが確認されたとのこと。加えて、膣分泌液を塗布された赤ちゃんは親による申告からなる脳の発達調査で高いスコアを獲得しており、そのスコアは経膣分娩で生まれた赤ちゃんのスコアと同程度であったと研究者らは述べています。

今回行われた発達調査の内容は、親が赤ちゃんのコミュニケーション能力や運動能力をチェックし、おもちゃに手を伸ばすか、赤ちゃんが親にほほ笑み返すかといったスキルを確かめるというものでした。この実験において、親は自分の赤ちゃんがどのような治療を受けたか、つまり実験群だったのか対照群だったのかを知ることができませんでした。

帝王切開で生まれた赤ちゃんは経膣分娩で生まれた赤ちゃんと比べて腸内の細菌叢(そう)が異なることが示されており、いくつかの研究では、その違いは誕生から約9カ月後に消失することが示唆されています。帝王切開で生まれた子どもは小児肥満や喘息、糖尿病を後年発症する可能性が高くなるという研究結果もありますが、それが赤ちゃんの腸内細菌によって直接引き起こされるのか、膣シーディングによって軽減されるのかは不明です。

この実験に携わったヤン・ヘ氏は「少なくとも生後6ヶ月間は、膣シーディングが子どもの短期的な脳の発達に良い影響を与える可能性があります。ただし、誕生初期の腸内細菌が神経発達にどのように影響するのか、正確には分かっていません」と指摘し、この研究がより大規模な研究を行うための足がかりにはなるとしつつ、膣シーディングを推奨すると言えるほどの臨床的意義はないと述べています。

研究には関与していないミネソタ大学のアレクサンダー・ホルツ氏は「これは非常にエキサイティングで有望な結果ですが、子どもの成長とともに脳は大きく変化するため、神経発達の違いが意味のあるものになるかどうかは明らかではありません。数ヶ月の発達の遅れは、18年後には何の意味もなさないかもしれません」と指摘しました。

https://gigazine.net/news/20230620-effects-of-vaginal-microbiota-transfer/