将棋の公式戦対局で鼻を出してマスクを着け臨時対局規定違反で3回反則負けとなり、出場停止3カ月の処分を受けた日浦市郎八段(57)が、規定は具体的な着用方法を示しておらず、これらの処分は違法だとして今月、日本将棋連盟に対し約380万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたことが25日、分かった。

日浦八段側は「鼻まで覆うと満足に呼吸できないため不快感を強く覚え、実力が十分に発揮できない。一律な義務付けは合理性を欠く」と訴えている。

日本将棋連盟は昨年2月、新型コロナウイルスの流行を受け、健康上のやむを得ない理由を除き、対局中はマスクを着用しなければならないとの臨時対局規定を導入。日浦八段は今年1~2月の棋王戦予選など3回の対局で「鼻出しマスク」を理由に反則負けとなった。2月に出場停止処分を受け、期間中の3回の対局が不戦敗となった。

訴状では、臨時対局規定には鼻を覆う状態でマスクを着用し続けることを求める文言はなかったと指摘。仮に鼻を覆う義務を読み取らなければならないとしても、反則負けや出場停止処分は社会通念上相当ではなく、裁量の逸脱だとしている。

政府がマスク着用は個人の判断に委ねるとの新指針をまとめたため、日本将棋連盟は3月、臨時対局規定を廃止した。

日浦八段は取材に「臨時対局規定は現場の棋士の意見を聞かずにつくられた。棋士には成績に基づく強制引退ルールがあり、処分の影響は小さくない」と話した。代理人の桜井康統弁護士は「政府はマスク着用を無理強いしてはならないと周知していた。他にも鼻出しマスクの棋士がいたのに、日浦さんだけを不当に処分した」と指摘した。

日本将棋連盟広報課は取材に対し「訴状が届いておらず、回答は差し控える」とコメントした。(共同)

https://mainichi.jp/articles/20230625/k00/00m/040/148000c