<ローテクで地味なスティンガーがこの戦争では前線の防衛の要になっている。スティンガー不足の前線は優位な立場を失いつつある>

ウクライナ軍がロシア軍と戦う上で強力な武器となっているアメリカの携帯式地対空ミサイル、スティンガー。

報道によれば、製造元の米レイセオンではウクライナにスティンガーを送るため、引退した技術者たちまで駆り出して増産しているという。

正式名称「FIM-92スティンガー」を、アメリカはこれまでに2000基近くウクライナに供与してきた。

スティンガーはロシア軍機、とくに攻撃ヘリの撃墜に大きな成果を上げており、米バイデン政権は6月、追加供与の方針を明らかにした。

スティンガーミサイルの援護があれば、地上部隊は航空機の支援がなくても、敵の航空機を撃ち落とすことができる。

スティンガーの製造が始まったのは1978年。それ以降、幾度となく改良が重ねられてきた。古い武器なので、増産が決まったからといって3Dプリンターで量産できるようなパーツはない。

要するに、スティンガーの製造は40年前と同じ方法でやらなければならない。「70歳代の元従業員たちを呼び戻している」とレイセオン・テクノロジーズのミサイル防衛部門の責任者であるウェス・クレマーは述べた。何十年も前の設計図を使ってミサイルを作っていた人々だ。

追加供与が決まったとは言え、3Dプリンターを使って量産というわけにはいかない。そうするには再設計が必要になり、認可を受けるのに長い時間がかかってしまう。

「倉庫から試験装置を引っ張り出して、クモの巣を払った」とクレマーは言う。一部の構成部品は再設計した。使われていた電子機器が時代遅れになっていたからだ。

軍事アナリストのアラン・オアは本誌に対し、「(ウクライナの)スティンガーは明らかに底をついており、ロシアもそれを分かっている」と語った。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/07/70-50_1.php