無反応だった元首相のAED 医師が直面した絶望的な緊急事態
https://mainichi.jp/articles/20230706/k00/00m/040/089000c

AED(自動体外式除細動器)は動かなかった。けいれん状態の心臓を正常に戻す装置が反応しないことは、心停止を意味する。
1年前のあの日。向き合ったのは安倍晋三元首相(当時67歳)だった。

「『とんでもないことが起きた』と直感し、スマートフォンも持たず白衣を着たまま飛び出しました」

2022年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で演説中だった安倍氏が銃撃されて死亡した事件。
現場で救命処置にあたったクリニック院長、中岡伸悟さん(65)が毎日新聞の取材に応じ、切迫した当時の状況を語った。

その時は突然訪れた。

「安倍さんが撃たれた! 先生、早く行ったって。早く!」

午前11時半過ぎ。駅前ビル3階に入る「中岡内科クリニック」の自動扉が開き、駆け込んできた患者の女性が動転しながら叫んだ。

「一瞬、状況がのみ込めなかった」。中岡さんは安倍氏の奈良入りすら知らず、銃声も聞こえなかった。
しかし、普段は決して大声を出さない女性が取り乱す姿に体が動いた。診察を中断し、現場へ走った。

安倍氏は直前まで、参院選奈良選挙区から出馬した自民党候補の応援演説をしていた。

 「皆さん、こんにちは。安倍晋三でございます」

四方をガードレールに囲まれたエリアで演説台に立った安倍氏はいつものように拳を振り上げた。この直後だった。
背後から近づいた山上徹也被告(42)=殺人罪などで起訴=に手製のパイプ銃で2度発砲され、演説台から崩れ落ちた。