大阪府吹田市教育委員会が全ての市立小中学校で君が代の歌詞を暗記している児童・生徒の数を調査した問題。教職員組合や保護者らが「国歌の強制につながる」として市教委側に強く反発し、市のトップも調査方法を問題視する事態にまで発展した。市教委は今後、同様の調査を実施しないことを決め、一連の経緯の検証を始めた。市教委は何を間違えたのか。【二村祐士朗】

 卒業式を間近に控えた3月9日、授業中だった市立小学校の男性教諭のもとに教頭が慌てた様子で駆け寄ってきた。教頭はしゃがみ込みながら「これ急ぎでお願い」と1枚の紙を手渡した。教諭が中身を確認すると、君が代と校歌を暗記している児童数を記入するように求める文書だった。

 「こんなこと調べていいのか」――。教諭はためらった。「国歌は決して強制されるべきものではない」という信念もあった。ただ回答期限が即日になっていた。結局、授業後に「君が代を覚えている人はいる?」と子どもたちに挙手を求めた。「疑問を持つ子がいてもおかしくないのに、そのまま質問してしまった」。教諭は当時を振り返り、自らの行動を悔いた。

 市教委の学校教育部は同じ日、市内の全54校の校長に調査の要請文を送っていた。ただ目的や調査方法に関する記述はなく、学校によって確認の方法が異なっていたとみられる。

 調査を問題視した教職員組合は4月、市教委に抗議文を提出した。後藤圭二市長も一部の学校で挙手させたことについて「内心の自由を侵す可能性があると想起させる行為で適切ではない」と苦言を呈した。保護者や市民ら約870人も調査をやめるよう要請した。

 市教委は毎日新聞の取材に、同様の調査を2012年以降、今回を含めて計5回実施していたことを明らかにした。いずれも自民党市議から質問があり、「議会対応」の一環として実施を決めたという。結果の一部は市議に伝えられていた。

 市議は取材に「支援者から(君が代に関する)質問があり、議会で取り上げた。結果を使ってどうするか詳しくは考えていなかった」と話した。

 市教委学校教育室の西慎一郎参事は「調査目的を示さず、子どもたちに挙手させたことで内心の自由を侵す可能性がある事態となってしまい、反省している」とした上で、「君が代を暗記している人数や割合を聞く調査は今後はしない」と話した。市教委では、今回の問題について内部検証を始めているという。https://mainichi.jp/articles/20230724/k00/00m/100/041000c