論壇時評 政治学者・宇野重規

 安倍晋三元首相の銃撃事件から1年が過ぎた。しかしながら、この事件をどのように受け止めるべきなのか。いまだその答えは見つかっていない。結果として、安倍元首相を語る言説は世に溢(あふ)れ、それが政治を動かしている。ある政治家は「永田町を漂ってい」る安倍氏に岸田文雄首相が「支配されている」と言い、また別の政治家は「安倍さん的な価値観」は生きていると語る。安倍元首相の遺志を振り回す人々に、「いくら呼んでも、現実には安倍さんは答えてくれない」と諫(いさ)める声さえある(〈1〉)。わたしたちの中にある「安倍元首相」の正体を今こそ考えるべきではないだろうか。

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