映画『バービー』が中国でコケるのではないかと考える理由はたくさんあった。中国の映画ファンのハリウッド映画に対する関心が低下したり、中国における女性の権利が後退したりしているときに、フェミニズム的であるといわれる大作が米国から上陸したのだ。

しかし、この映画は中国で予想外の大ヒットとなった。

「女性の自立を描いた映画や、フェミニズムの香りがする映画は、中国にはあまりないんです。だから、みんな見る価値があると思ったのでしょう」と、女友達に勧められて先日1人で観に行ったというリー・ミナ(36)は言う。

公開初日、上映館や上映回数がかなり限られていたにもかかわらず、『バービー』は中国のSNSで瞬く間に話題となり、一時は「微博(ウェイボー)」の検索回数トップにまで上りつめた。こうした人気を受けて、劇場は上映回数をどんどん増やし、公開から最初の1週間で4倍近くになった。

米国ほどの熱狂ぶりではないにせよ、『バービー』は中国の一部でミニ旋風を巻き起こし、ピンクの服を着た写真を投稿したりする映画ファンもいる。

8月2日の時点で、『バービー』の中国での興行収入は2800万ドル。同時期公開の『ミッション:インポッシブル』最新作には及ばないが、『インディ・ジョーンズ』最新作の興収は超えている。

「女性の権利主義」ではなく「女性主義」に

深センのIT企業で働くヴィッキー・チャン(27)は、中国のフェミニズムに関する会話はまだ初期段階にあり、構造的な問題よりも男女間の違いに焦点が当てられていると思うと語る。

『バービー』を鑑賞した彼女は、「この映画で描かれる家父長制に対する批判は、究極的には穏やかなものであり、だからこそ中国でこれほど広く支持されたのでしょう」と感想を語った。

フェミニズムに対する警戒心が中国にあるのは明らかなようだ。北京で『バービー』を観た人たちにも何人か話を聞いたが、男女を問わず、この映画は「女性の権利を主張するのではなく、男女平等を推進する作品だ」という感想が返ってきた。

『バービー』の中国語字幕は、「フェミニズム」を「女性の権利主義」ではなく「女性主義」と訳している。どちらも英訳すれば一般的に「フェミニズム」となるが、後者のほうが政治的な意味合いが弱まるとみられている。

江蘇省出身の大学生、ワン・ペイフェイもそのように区別した。彼は『バービー』がとても気に入ったので、今度は母親を連れて観に行きたいと話す。女性に課せられたダブルスタンダードについての演説シーンを、母親は喜ぶだろうと思うからだ。

だが一方でワンは、彼が「極端にフェミニズム的なレトリック」と表現するシーンには懸念を覚えたと語る。たとえば、女性が自分には男性など必要ないと宣言するような場面だ。

とはいえ、それでも彼がこの映画を気に入ったのは、他の映画ほど過激ではなかったからだという。

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