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ビッグモーター不正、自動車整備と損保の「もたれ合い」を生んだ構造的欠陥の正体

●ビッグモーターの不正は 業界全体の構造的問題
中古車販売大手のビッグモーターによる保険金不正請求問題は、急成長したビッグモーター自体のコンプライアンスやガバナンスの不全が指摘される一方で、自動車販売業界全体における整備と保険の構造的な関係の問題点を浮き彫りにしたと筆者は考える。
ビッグモーターの行為は言語道断であり、悪質な不正が横行していた“ブラック企業”として何らかの行政処分を受けることになったとしても、事はビッグモーターだけにとどまらない業界全体の構造的な問題としてしっかりと捉える必要があるのではないか。
そこには、バブル経済崩壊後の自動車市場の成熟化でアフターサービスにおける整備が“総合整備業”へと移行してきたことや、自動車ディーラーによる整備サービス領域強化の動き、さらには損保業界の競合激化の中で整備業との連携が強まったという背景があるだろう。
自動車整備業界という観点で見ると、自動車市場がバブル経済崩壊後にかけて成熟化する中で、新車販売・中古車販売・整備・リサイクルなどのバリューチェーンにおける顧客の囲い込みの重要性が増してきたことで、大きな変化が生じた。
そもそも、一口に自動車整備と言っても、道路運送法で定められたエンジンなどの取り外しを含む高度な整備である「分解整備」と、板金塗装などを行う「車体整備」がある。
従来は車検整備を中心とする分解整備は、国土交通省から認証工場、指定工場(民間車検工場)の資格を取得した整備事業専業企業と自動車ディーラーのサービス工場が中心の担い手であり、板金塗装などを行う車体修理工場とは「すみ分け」がなされていた。
実際、分解整備事業の団体が各県ごとの「自動車整備振興会」と中央に「日本自動車整備振興会連合会(ニッセイレン)」として約9万の事業場を擁する一方で、車体整備業界としては全国団体の「日本自動車車体整備協同組合連合会(ニッシャキョウレン)」が4500の車体整備事業者を抱えており、業界団体は分かれている。
かつては車体整備業が、分解整備を行う整備専業事業者・ディーラーの“下請け”として位置付けられていた。しかし、クルマ市場がストック中心の“保有ビジネス”へと移行したことや自動車の電動化が進む中で、ディーラーによる顧客の囲い込み強化と中古車販売・カーリース事業者などの「総合整備化」が進む流れが生まれたのだ。
こうした総合化の潮流が、国内自動車販売に関わる事業者が生き残り策を講じる中で、保険の取り扱いも含めた業容の拡大を促進し、保険会社との密接な関係を形作っていく要因となったといえるだろう。
この自動車整備事業の転換に合わせるように、自動車保険事業が収入保険料の半分を占める損害保険業界もまた2000年代に合併・統合が進み、08年のリーマンショックの際には、厳しい環境下で急速な大再編が進んだ。10年度には、現在の東京海上ホールディングス(HD)、MS&ADインシュアランスグループHD、SOMPO HDの大手3グループ体制に集約した。
損保業界と自動車販売業界との関係は、自動車保険(自賠責保険と任意保険)の取得と保険手数料収入確保を目指し、かねて損保各社はいかに販売・整備業に食い込むか、という競争が続いていた。
例えば、MS&ADに統合された旧千代田火災はトヨタ系列で、メーカーのトヨタ自動車から千代田火災トップに首脳を送り込まれる人事もあったほどである。
損保サイドから言うと、法律に基づき運用される強制保険の自賠責保険には、損失も利益も出さないよう収支を調整する「ノーロス・ノープロフィットの原則」がある。自賠責保険料は一律に決められるため、損保会社はどれだけ多くの契約を獲得しても保険による利益は発生しない。
ただし、自賠責の保険料は自動車保険の収入として計上される。その金額は各社の市場規模シェアを示す指標になる。自賠責を足掛かりに任意保険で契約を増やすという戦略もあることから、損保サイドとしても自賠責の契約を伸ばすことは重要だ。
そうしたことから、自賠責保険の割り当てを回してくれるビッグモーターのような大手との関係は重視される。
車体整備業サイドは、その意味で保険会社に“恩を売る”側面があるものの、元々が下請け的な立場が長かった中で損保業界が主導するシステムに追従せざるを得ない状況もある。
例えば「DRP(ダイレクト・リペア・プログラム)」という、損保会社がユーザーに対して修理工場を直接紹介する仕組みがある。