オレクサンドルは、入隊していないにもかかわらず、2022年5月から前線で転戦している。困っている旅団に手を差し伸べ、彼の必殺技であるドローンを駆使して、まるで鉄球のようにひとりでロシア軍を蹴散らすのだ。

彼はあるリストを見せるために携帯電話を取り出した。戦車5台、歩兵戦闘車(CIV)5台、装甲兵員輸送車5台、偵察戦闘車1台、MT-LB(汎用軽装甲牽引車)2台、別種の歩兵戦闘車(IFV)1台、対空装甲車1台。これら20台は、彼の攻撃で戦線を離脱した、ロシア軍にとって非常に重要だった兵器の一覧である。
それに加え、彼は戦車6台と装甲車10台に戦闘不能なほどのダメージを与えている。

オレクサンドルは、この攻撃の過程で失われた命について考えることは避けている。彼は、金曜の朝7時15分、爆弾を搭載した自身のドローンがロシア兵2人の命を奪い、6人を負傷させたことを認めた。
ウクライナの反撃部隊が、仕掛け線や対人・対装甲地雷をくぐりぬけてじりじりと前進している、ザポリージャ南部のロボタイン村付近、要塞化された塹壕でのことだ。ちょうど、その地域がウクライナの支配下に回復したという知らせが届いたときだった。

「我々はいい働きをしましたよ」と彼は言った。

オレクサンドル(彼の希望によりフルネームは明かせないことになっている)は、自身のすさまじい戦果の証拠となる動画を持っていた。
その金曜の攻撃時に撮影された動画には、ロシア兵が上空からの危険に気付くことなく、彼らの陣地へと襲撃しようとするウクライナ兵に向かって塹壕から射撃している様子が映っていた。そこにオレクサンドルのドローン「Mavic 3」のうちのひとつが急降下すると、たちまち彼らを壊滅させてしまった。

オレクサンドルが、ほんの数時間前まで殺戮をおこなっていたザポリージャのひまわり畑のそばで筆者と会うことにしてくれたのは、戦果をひけらかすためではない。「戦争は何も自慢できるものではない」と彼は言う。オレクサンドルは不満を打ち明けに来たのだった。

2023年8月初め、ウクライナの防衛大臣オレクシー・レズニコウは、10番目の一人称視点(FPV)ドローンのモデルが「ウクライナ軍の公式な軍事行動において採用される」ことを告知した。
オレクサンドルも彼の同僚も、このモデルをいまだに見たことがない。それどころか、国防省からデバイスを支給されたことすらないという。

オレクサンドルのドローンは、ネットで中国から買った部品を、2人の友人の手を借りながらキーウにあるアパートの24階で組み立てたものだ。
完成したドローンは、毎月彼が住居のあるキーウに戻った際に受け取ったり、あるいは彼が戦闘に参加している地域の近くまで郵送してもらったりしている。

こうして作られたドローン1機あたりの価格は400米ドル(約5万8000円)で、費用の大部分は匿名の寛大な篤志家が受け持っている。国防省の装備品不足のため、大きなボランティア団体がほかの陸軍部隊のために650米ドル(約9万4500円)のドローンを買い占めているが、それに比べるとかなり安い額だといえる。

オレクサンドルは、「我々はドローンを使えばこの戦争に勝てる」と語る。しかし、何千ものドローンを安価で製造し、前線に送り込もうとするロシア側の動きは、ウクライナ側ではまだ実現できていないことも付け加えた。

「それで私はいまだに軍に入らないのです。指揮官の下に入ってしまうと、上が愚か者で質の高い作戦を遂行できないかもしれない。私はひとりであるからこそ非常に効率よく動くことができています。私はこの戦争の最後まで戦うつもりです」

「公式の情報では、ロシアは工場で3000機ものドローンを作っているそうです。一方のウクライナでは、わずかな金持ちの『ツァーリ』(暴利を得る商人のこと)たちが売るドローンばかりで、ボランティアのファンドが1機あたりに650米ドルもの大金を払っているのです」

彼は偵察用のドローン8機をロシアの攻撃により失った。2ヵ月前には、戦車の砲撃がすぐ近くに着弾し、足に深い切り傷を負っている。
「ロシアは戦略を変更し、ドローン操縦士を殺そうとしています」と彼は言う。
オレクサンドルは月におよそ10機のカミカゼ・ドローンを使うが、取材の前日の晩に5機使ってしまったため、現在は補給待ちである。

オレクサンドルの偽名は「マヨール」で、それは「金持ち」といった意味の語だ。2022年3月、キーウの検問所を手伝っていた際、オレクサンドルの持っていたカラシニコフのライフルが少し新しいモデルだったのを見た友人が、それをからかったことから定着した名前だ。

「本当は気に入っていませんでしたが、その友人はもう亡くなってしまったので、彼への敬意からそれを名乗っています」

https://courrier.jp/cj/335885/