中国経済はリベンジ消費どころか物価が下落中

これとはまったく対照的なのが中国経済だ。去年は「ゼロコロナ政策」の結果、低成長に甘んじていたわけだから、今年は当然、良くなるはずである。政府目標の5%成長くらいは軽いだろう、と思っていたら、どうも調子が違うのである。

公式発表では、今年の中国経済は第1四半期4.5%、第2四半期6.3%成長である。ただし中国政府発表の場合、これは前年同期比であるから、去年のロックダウンの時期に比べて高く出るのは当たり前。普通の先進国の統計のように「前期比」に置き換えてみると、第1四半期は2.2%、第2四半期は0.8%と減速していることになる。

さらに驚くのは、7月のCPI(消費者物価指数)が前年比▲0.3%とマイナスに転じていることだ。おいおい、世界中で物価が上がって皆がヒイヒイ言っているときに、中国では物価が下落しているぞ。どうなってるんだ、これは。

世界中が「コロナ明け」となり、過去3年間に積み上がった家計貯蓄を使って、ここぞとばかりに「リベンジ消費」をエンジョイしている。外食やツーリズムは当然だが、エンタメ関係はとくに目覚ましい。超人気ポップ歌手、テイラー・スウィフトさんのコンサートは、チケットが最低価格4万ドルで転売されるばかりか、ホテルを満杯にして宿泊料金を吊り上げ、行く先々でインフレを招くから「スウィフトフレーション」と呼ばれているという。

「人が大勢集まっちゃダメ」という時期が続いた反動があるだけに、この勢いはしばらく止まらないだろう。どちらかといえば消費性向の低い日本人でさえ、この夏は「4年ぶりの夏祭り」や「花火大会」を楽しんでいるではないか。ところがなぜか中国では、コロナ明け後も人々は消費を手控えて地味に貯金を増やしているのである。

その謎解ときは不動産市場にあり。中国の1級都市、つまり北京や上海ではなおも住宅価格は上がっている。2級都市(重慶など)ではおおむね横ばいである。問題は3級都市と呼ばれるその他の地方都市だ。この「その他大勢」の住宅価格が盛大に下げている。

中国における不動産は、家計が保有する最大の財産である。GDPに占める不動産業のウェイトは12%と言われるが、波及効果を加えると25%にもなるという。

恒大集団が債務不履行になっても、銀行経営は揺るがず

この問題がいかにややこしいか、例の恒大集団の内情から説明するのがよさそうだ。8月28日付の日本経済新聞に、「中国恒大、22兆円の開発用地が重荷 債務超過拡大も」という記事がある。ここに今年6月末時点の恒大集団のバランスシートが掲載されていて、その中身がまことに興味深いのだ。

恒大集団は総資産が1兆7440億元で、総負債は2兆3882億元。締めて6442億元の債務超過であり、普通の企業ならばこの時点でゲームセットである。1元=20円なので、総資産が34兆円で総負債が48兆円、バランスシートに14兆円の穴が空いている!と考えるとわかりやすいだろう。

それでは総負債の内訳はどうなっているのか。借入金は6247億元だから、せいぜい13兆円程度である。この程度であれば、恒大集団がデフォルト(債務不履行)したとしても、中国4大銀行(すべて国有銀行)の経営が揺らぐことはあるまい。

福本智之大阪経済大学教授によれば、中国は1990年代の日本における不動産バブル崩壊の過程を研究していて、「住宅価格の下落が不良債権問題を通じて金融不安を招く」怖さをよく理解している。だから不動産デベロッパーも、銀行からの借り入れは少ない。それは結構なことである。

続く
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