北海道・知床半島沖で昨年4月に観光船「KAZU I(カズワン)」(乗客乗員26人)が沈没した事故で、国側の不十分な船体検査で事故が起きたとして、死亡した同船の甲板員・曽山聖(あきら)さん(当時27歳)の両親が国に計約1億800万円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。国の責任を問う訴訟が明らかになったのは初めて。

 国の運輸安全委員会はこれまでの調査で、船首甲板ハッチが密閉されておらず、海水が流入したことが沈没の直接的な要因だったと分析。今年6月公表の「事実調査に関する報告書案」によると、国土交通省所管の特別民間法人「日本小型船舶検査機構」(JCI)は事故3日前の検査で、ハッチの開閉試験を省略したまま、カズワンを通過させた。

 両親側は4日付の訴状で、運航会社側の誤った判断で船を出航させていたとしても、ハッチの密閉性が保たれていれば船は沈まなかったと主張。船舶安全法に基づき、国に代わって検査事務を行うJCIの検査員が、ハッチの密閉性を目視のみで確認したため不具合を見逃したとし、国には安全に航行できる能力のなかったカズワンを検査に合格させた責任があると訴えている。

 事故は昨年4月23日に発生し、乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明となった。曽山さんは同月に運航会社の「知床遊覧船」に入社したばかりで、事故当日は甲板員としての乗船初日だった。両親は同社と桂田精一社長(60)に対しても、計約1億1900万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴している。

 両親の代理人弁護士は取材に「検査がきちんと行われていれば痛ましい事故は起きなかった。事故の再発を防ぐためにも真相を究明し、国の責任を明らかにしたい」と話した。国交省の担当者は「訴状を受け取っておらず、コメントは差し控える」としている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/d3c61fee5946cced6864611a08fa7164a1a7e232