東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出が始まってから24日で1カ月がたつ。
中国による日本産水産物の輸入全面停止の影響を大きく受けているのがホタテだ。
国内の倉庫には行き場のなくなったホタテがあふれている。
岸田文雄首相は「水産業を守り抜く」として緊急支援策を打ち出したが、現場からは「早急に対処してほしい」と悲痛な叫びが聞かれる。

小学校の体育館ほどの広さがある冷凍庫に、段ボール箱が積み上げられていた。中にあるのは、約2000トンの殻付きホタテだ。

北海道紋別市の水産加工会社「丸栄水産」はこの自社倉庫のほかに他社の冷凍庫を借りて保管する。
2022年は全取扱量約6300トンの6割を中国に輸出したが、今年は8月の出荷分が22年8月比8割減の192トン。このまま行けば年末には5000〜6000トンがだぶつく見込みだ。

「今年の売り上げは昨年の10分の1になりそうだ」。森悦男社長(56)はそう言って肩を落とす。電気代や燃料費の高騰も追い打ちをかけ、余計な経費だけが膨らんでいく。

森社長は政府に対して「まずは保管場所の確保を優先し、新たな輸出先や消費拡大にも早急に取り組んでほしい」と注文する。

農林水産省によると、22年のホタテの国内生産量は北海道が約43万トンと1位で全国では約51万トン。このうち輸出に回るのは約29万トンで中国が約14万トンを占める。

函館税関の集計では、8月のホタテを含む北海道の魚介類とその加工品の輸出額は約48億円で、22年8月に比べて4割ほど減少した。
財務省が発表した8月の貿易統計(速報、通関ベース)でも、水産物を含む食料品の中国向け輸出は22年8月比約4割減の約142億円に縮小している。

政府は中国に代わる輸出先として、欧米や東南アジア、中東などでの拡大を狙う。海外の商談会や見本市でアピールして販路を開拓していく予定だ。しかし、中国以外へのホタテ輸出には高い壁がある。

函館税関によると、殻なしの冷凍貝柱は中国のほか欧米や台湾にも輸出されてきた。
一方、加工が必要な冷凍殻付きホタテの輸出先は99・6%が中国だ。

国内に新たに加工場を整備して欧米に輸出するには食品衛生管理手法「HACCP(ハサップ)」の認証を得なければならない。少子高齢化で人手もすぐに集めることができない。

では、国内需要を喚起することはできないか。

北海道函館市の水産加工会社「きゅういち」は今月4日、国内消費者向けに、中国への輸出用に保管していたホタテを販売するウェブサイトを開設した。
10日間で1700件以上の注文があり、売り上げは1500万円超になった。「頑張れ、生産者の方々」「中国禁輸に負けないでください」などのメッセージも数多く寄せられているという。

しかし、中国向け製品の売り上げが全体の4分の1を占めていた同社には、まだ出荷のめどが立たないホタテが数十トン残っている。

政府は各省庁の食堂で使うなどして国内需要の拡大をアピール。
支援策の中に殻むき機導入費も盛り込むが、水産庁によると、殻むき機を製造できる会社は国内外に2、3社しかない。

きゅういちの担当者は「機器導入には時間がかかり、中国以外の海外への新たな販路開拓もすぐには難しい。自社サイトで近隣業者の製品も取り扱うことで商品を増やし、国内での販路を広げられるように取り組んでいきたい」と話す。【本多竹志、三沢邦彦、石川勝義、安藤いく子】

https://news.yahoo.co.jp/articles/8d6bb0cda63bd23d072385a1872ed3c3eead4b31