差別の被害者であるマイノリティの命懸けの闘いがまた一つ尊い判決を勝ち取った。
長く在日コリアンに投げつけられてきた「祖国へ帰れ」という言葉は差別であり、違法だと示されたのだ。

匿名のブログで「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」と差別されたとして、川崎市の在日コリアン3世、崔江以子さん(50歳)が起こした訴訟の判決が10月12日、横浜地裁川崎支部(櫻井佐英裁判長)であった。
「帰れ」はヘイトスピーチ解消法に定める差別的言動に当たり、憲法13条で保障される人格権を侵害する違法なものと認定。茨城県つくば市の篠内広幸氏に対し、194万円の損害賠償を命じた。

判決は「本邦外出身者であることを理由として地域社会から排除され、尊厳を害されることなく平穏に生活する権利は日本国民と同様に享受されるべきだ」と指摘。
「帰れ」の表現は「排除を煽動する不当な差別的言動であるから、平穏に暮らす権利などの人格権に対する違法な侵害に当たり、不法行為となる」との判断を示した。

崔さんが受けた被害について「地域社会の一員として過ごしてきたこれまでの人生や存在自体をも否定する。名誉感情、生活の平穏、個人の尊厳を害した程度は著しく、精神的苦痛は非常に大きい」と指弾。
「多数者が閲覧できるネット上になされており、行為態様も悪質」と非難を重ねた。
「帰れ」という書き込みに対して110万円、「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」という記載については侮辱に当たるとして84万円の支払いを認めた。

在日コリアンの存在を否定する排除型のヘイトスピーチは歴史的に最も多用され、同じ人間として認めない深刻な被害をもたらしながら、「死ね」「ゴキブリ」といった脅迫や名誉毀損などが当てはめられてきた類型とは違って違法性の認定が確立していなかった。
原告弁護団の神原元弁護士は判決の意義を「『帰れ』はヘイトスピーチの典型中の典型。
長年在日コリアンを苦しめ、今もネット上で苦しめているヘイトスピーチを断罪した」と強調した。
師岡康子弁護士も「『帰れ』のひと言で100万円の賠償が認められ、抑止効果が期待できる」とうなずいた。

加えて評価したのは、ヘイトスピーチ解消法2条で定義する不当な差別的言動に当たれば、違法な人格権侵害になると認めた点だ。
国や自治体に差別的言動の解消に向けた施策の実施を求める同法は禁止・罰則規定がないため抑止力に課題があった。
神原弁護士は「理念法にとどまる解消法を補充し、実効性を持たせる判決だ」と力を込め、師岡弁護士も「禁止規定がないことが当事者を苦しめ、裁判をやらざるを得ない状況を生んできた。
実質的に禁止法として機能させる意義がある」と続けた。

判決を聞き、涙をぬぐった崔さんは会見で「私たちは一緒に生きる仲間なんだと示してもらった。
帰れと言われ痛めつけられてきた在日1世のハルモニ(おばあさん)やこれからを生きる子どもたちも守られる」と喜びを語った。

ネット上の攻撃が始まったのは、在日コリアン集住地区の川崎区桜本を襲ったヘイトデモの被害を国会で証言した2016年3月から。
その訴えは解消法の制定につながり、横浜地裁川崎支部のヘイトデモ禁止仮処分決定やヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の川崎市条例を導く一方、逆恨みした篠内氏ら差別者によるネットリンチに苦しめられてきた。
勤務先の川崎市ふれあい館に脅迫状が送りつけられ、襲撃の恐怖から防刃用のベストとアームカバーを着用しなければ外出もままならない。

崔さんは「ネット上の差別が野放しになっている。判決がこれ以上の被害を生まない差別禁止法につながったら」と希望を語り、傍らの師岡弁護士は呼びかけた。

「命の危険にさらされながらここまでの判決を勝ち取ってくれた。これ以上負担をかけてはいけない。私たちマジョリティが力を合わせて法をつくり、機能させていこう」

https://news.yahoo.co.jp/articles/6eb5bd14742461e3db29ae8037f25d71e49d0a68