中国製電気自動車(EV)の補助金調査に乗り出すなど、中国依存からの脱却を目指している欧州連合(EU)。域内のEV供給網の一角を担うとされた英国の新興電池企業の経営危機が表面化した。脱中国の難しさが浮き彫りになっている。
 英新興電池企業のAMTEパワーが9月末に開いた株主総会。新株発行で210万ポンド(約4億円)を資金調達する案の了承を得たが、参加した株主は「問題が先送りされただけだ」と述べた。
量産へもたつき
 AMTEパワーは2013年設立で、ロンドン証券取引所の新興企業向け「AIM市場」に上場している。22年にスコットランドで大型電池工場の建設構想を公表したが、事業は赤字が続いており、今年7月には「(財務が)危機的状況にある。今後、数営業日以内に解決策を導入する必要がある」と公表していた。
 英国では1月にも巨大電池工場「ギガファクトリー」の建設を掲げたブリティッシュボルトが破綻している。AMTEも今回の増資で一息ついたとはいえ、事業を立ち上 げて売り上げを確保しなければ、再び資金繰りに詰まる状況になっている。
 車載電池で欧州勢の出遅れは深刻だ。韓国の調査会社SNEリサーチによると、22年の世界シェアは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と、韓国のLGエネルギーソリューションの上位2社で半分を占める。上位5社に欧州勢の名前はない。
 金属箔に鉱物の混合物を塗布して作り込む電池は、欧州が強い内燃機関車とは異なるノウハウが求められる。中韓勢が着々と技術革新を進める一方で、米テスラの元幹部が創業し、独フォルクスワーゲン(VW)など車大手が出資するスウェーデンのノースボルトも量産に手間取っている。
 ノースボルトは、21年にスウェーデン北部で電池工場を立ち上げた。23年から25年にかけ、生産能力を16ギガワット時から40ギガワット時に拡大する計画だったが、取引先は「量産化の段階で歩留まりが解消せず、予定していた供給量が出せない状況が長引いている」と話す。
 英国のファラデー研究所によると、欧州13カ国でのギガファクトリー計画は22年6月時点で 稼働済みから計画公表段階のものまで含め41拠点。計画通り進めば、生産能力は22年時点の100ギガワット時超から、30年に約1100ギガワット時まで増える。
技術格差大きく
 ただ、中国勢との技術的な格差は縮まらず、供給網を充実させようとすれば中国勢にすがらざるを得ない。政府方針に合致しない現実も浮き彫りとなっている。
 英国のギガファクトリーは日産自動車から中国企業傘下に移ったAESCグループの工場のみ。その英国で今夏、インドのタタ・グループの電池工場の新設が決まった。
 新工場は政府補助を受けるが、自国メーカーではなく、AESCが関わる方向で話が進む。AESCの松本昌一最高経営責任者(CEO)は「(欧州で弊社が)中国資本という懸念はないと理解している」とするが、中国依存への警戒からかタタだけでなく英国のスナク首相ですらAESCの関与には口を閉ざす。
 脱中国の難しさは製造技術だけではない。
 EUでは電池に使うニッケルなど重要原材料に位置づける34品目のうち、11品目で採掘か加工の工程における最大の輸入先が中国。供給網全体が中国に左右されて おり、「電池は脱依存でなく、中国とどう付き合うかがもはや重要」(伊藤忠総研の深尾三四郎氏)なのが実態だ。
 供給網の構築が追いつかない現状は、政府方針にも影響を与え始めている。EUに続き英政府も9月、車の脱炭素戦略の見直しを表明した。EUは足元で電池の中国依存への懸念も議論している。
 EV化の流れはもう止まらない。中国など外の力を使ってでも成長を優先するか。それともEV化を遅らせても自国の企業や供給網を育てながら産業競争力を高めるか。英新興企業の危機が映すのは、欧州各国に突きつけられている課題ともいえる。