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あるとき、お釈迦さまが弟子たちと托鉢(たくはつ)に出かけられました。
しばらくして、行く手が二股に分かれていましたが、
お釈迦さまが右に歩まれるとお弟子の一人が言いました。

「お釈迦さま、失礼ですが、道を間違われたのでは?
 こちらの道は、大変貧しい者の住む集落に向かいます。
 最近の飢饉で餓死する者まで、出ているところです。
 そんな村に托鉢に行かれても、布施する人はいないでしょう。
 反対の道ならば、大地主や大商人たちの住む町ですから、
 布施する人も多くありましょう」
それに対して、お釈迦さまは、こう仰有いました。

「道を間違えてはいない。
 この道が、貧しい村に通ずることは知っている。
 布施は貧しい者ほどしなければならないのだ。
 彼らが現在、餓死するほどに貧しいのは、
 過去世で欲深く、布施の功徳を積まなかったからである。
 布施を励んだ人は、恵まれた家に生まれ、
 施しをしなかった人は貧しいところに生を受ける。
 彼らは自らの報いを受けているのだ。
 貧しい中から、米一粒でも布施をして、功徳を積むならば、
 それにより、彼らは今の苦しい状態から、抜け出せる。
 長者の万灯よりも貧者の一灯、布施の尊さは量にはよらない。
 貧しさに苦しんでいる人ほど、布施をしなければならないのだ」
弟子たちは深く頷いたと言います。