「世紀のプロジェクト」が開始

2024年1月26日、エジプト観光・考古省が、ギザの三大ピラミッドのうちのひとつ、「メンカウラー王のピラミッド」の復元プロジェクトの概要を発表した。このプロジェクトには考古学者で早稲田大学名誉教授の吉村作治など、日本人も参加しているという。

インターネットに公開された動画で吉村と一緒に登場したエジプト考古最高評議会事務局長のムスタファ・ワジリは、これが間近に迫った大エジプト博物館の開館に合わせた「世紀のプロジェクト」であり、「エジプトから世界への贈り物」だと胸を張る。

英紙「ガーディアン」によると、メンカウラー王のピラミッドは、建設当初は花崗岩で覆われていたが、時代とともにその層が失われた。また、「インディペンデント・アラビア」によると、後の時代にほかの施設に使うために切り出されたケースもあるという。

ピラミッドから落ちたとされる花崗岩の一部は、いまもピラミッド周辺に散らばっている。この花崗岩の層を復元し、「完成時の姿」にするというのが、今後3年間続くというこのプロジェクトだ。

「不適切な介入」という声も

しかし、花崗岩を再びピラミッドの表面に設置することに対しては、賛否両論ある。

新アレクサンドリア図書館考古学博物館長のフセイン・アブデルバシルは、インディペンデント・アラビアに対し、ピラミッドに再び石を積み上げることを完全には否定しないが、広範な調査の後、必要性や危険性をしっかりと見極める必要があると述べる。

国際建築家連合の遺産委員会委員で文化遺産保存コンサルタントのタリク・アル=マリは、歴史的建造物の保存・修復の基準を定めたヴェネツィア憲章などに則ると、周囲に残っているピラミッドから落ちた石のみを使用して一部を覆うのなら問題はないが、全体を覆うためにほかの石を追加してしまえば、それは歴史的遺産を危機にさらすことになるだろうと指摘する。

さらに強く反対を表明する専門家もいる。考古学者のモニカ・ハンナは、花崗岩の層はメンカウラー王の死後に追加されたため、本当の意味で「建造時の姿」ではないとする説や、花崗岩の層がなくなってから長い時間が経ち、ピラミッドの石がもはや花崗岩の重さに耐えられなくなっているだろうという理由から、花崗岩の層を復元すること自体を「改ざん」と表現する。

ほかの専門家たちもSNSなどで、これはまるで「ピサの斜塔を直立させるプロジェクト」のようだと皮肉交じりにコメントしたり、現在のエジプト考古最高評議会のもとでは、これまでも誤った修復がされてきたので信用できないと批判したりしている。

歴史的建造物はどの時点を基準にして、どの程度「復元」されるべきか──このピラミッドに限らず、世界的に重要な遺跡の修復にあたっては、慎重な議論が必要だ。

https://courrier.jp/cj/352841/