>>1
「三段壁までお願いします」
そう言って、一人の女性がタクシー運転手北本弘さんのタクシーに乗ったのは昨年12月10日夕だった。
荷物は小さなリュックだけ。三段壁までの料金を問われて目安を答えると、女性は「良かった。4000円、持ってる」。
遊びに来たのではなさそうだと感じ、北本さんは世間話をした。
 「何しに来たの」
 「ちょっと」
 「泊まるところはあるの」
 「まだ決めてません」
 「それでは遅いよ」
 「いや、いいんです」
 ルームミラー越しに後部座席の女性の様子をうかがった。

 「何があったの?」と思い切って尋ねると、「私は一生懸命やっているのに、周りがわかってくれない」。女性は涙ぐんだ。
 自殺をしようとしている人だと確信した。「変な考えを起こしたらあかんよ、警察へ行こう」と促した。女性は「死なせてください」と大声で泣き出した。
 「人間をやっていたら、つらいこと、苦しいこと、ようけ出てくる。けど、負けたらあかん」。声をかけているうち、タクシーは三段壁に到着した。
 しかし、「ここでは降ろしません」とそのまま白浜署へ向かった。北本さんが手を引いて署内へ連れて行く間も、女性は泣いてばかりだったという。
女性はその後、署から連絡を受けた家族に連れて帰られた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/358cf2fa3d484ec380ed924c0bc7642719926de9