ゼレンスキー氏「賭けの解任」…後任は「旧ソ連型思考」の将軍、兵の犠牲顧みない作戦多く士気低下の恐れ
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ロシア軍との戦闘が行き詰まる中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、軍制服組トップのワレリー・ザルジニー総司令官(50)を解任するという大きな「賭け」に出た。軍事面で兵の士気低下、政治面で国民の批判を招く「二重のリスク」をはらんでいる。
(写真:読売新聞)
ゼレンスキー氏は8日夜、険しい表情でビデオ演説し「我々は以前に比べ、勝利について話すことが減っている」と吐露した。前進できないウクライナ南部、露軍の猛攻を受ける東部の戦況により「国民のムードにも影響した」と国民の戦意低下を指摘し、軍の立て直しのため「リセット」が必要だと強調した。
ゼレンスキー氏の言葉通り、再スタートが切れるかどうかは不透明だ。
理由は人選だ。後任のオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官(58)は、8歳年長で旧ソ連時代にモスクワ近郊の士官学校で軍事を学んだ「旧ソ連型思考」の将軍との評価がある。2022年2月の侵略当初、首都キーウを守り切った功績がある一方、23年5月に露軍に制圧された要衝バフムトでの戦闘では、早期撤退を聞き入れず、数千人規模の経験豊富な兵士を失ったとされる。兵の犠牲を顧みない作戦を立てることが多く、「一般兵に広く嫌われている」(米紙ワシントン・ポスト)という。英字紙「キーウ・ポスト」によると、前線の兵士からは「大統領が代わるのはいいが、ザルジニーの交代はダメだ」との声が出ており、かえって士気の低下を招く恐れがある。
国民も反発し、ウクライナの強みだった一体感が損なわれるとの懸念もある。露軍の侵略当初から軍を率いてきたザルジニー氏は「国家防衛の象徴」で、国内各地のカフェやレストランなどに肖像画が掲げられている。
調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」が昨年12月に行った世論調査では、ザルジニー氏を「信頼する」との回答が92%で、ゼレンスキー氏の77%を上回った。解任があれば「否定的に思う」との回答が72%に達した。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、ウクライナ保安局は解任にあたり、キーウで「暴動が起きる可能性」まで警戒していたという。
ウクライナ軍は米国の追加支援の遅れによる武器・弾薬の欠乏と、志願兵の減少に伴う兵士不足で苦境に立たされている。このまま戦況を好転させられない場合、軍や国民の不満が政権に向かいかねない。