>>33
 飢饉がもたらした惨苦。それはあまりに根深かった。
 もともとは小さな農村だった。農作物は壊滅し、蓄えも尽き、木は枯れた。此処は何処かと問われれば、六道における餓鬼界と答えたところで疑い様はなかった。
 食物を口にしなくなって、果たしてどれほどの時を過ごしたのか。腹は餓鬼の如く膨らんでしまった。喉は辛うじて息をする程度の役割しか果たせなくなっていた。
 何かを食べたかった。食べられそうなものが目の前にあるのに──。混濁した意識の中、葛藤は決して終わることはなかった。
 しかし、最初の一口から後は、それまでの煩悶が嘘のように心から消えた。喉が潤う。顎が動く。歯で噛む。空気以外の物が喉を通る悦び。ひたすらに貪り食った。これ以上の御馳走は記憶に無い。食えそうな部分をひとしきり食い終わると、正気に戻った。冷静に、自分が何を食ったのか、正しく理解した。だが、罪の意識などなかった。
「お、おめえ、何……何を食っとんだ?」
 息も絶え絶えな声が諌めてくる。
「子供……食ってんのか? それだけはやっちゃなんねえだろうが! この……腐れ外道が!」
 声は出せなかった。呑み尽くした腕が喉に絡み付いてしまったために。だから、表情で応えた。
 歪んだ笑顔で。
 いただきまぁす──と。