低賃金で働くキャラに共感広がる「ちいかわ」ブーム ままならぬ人生描くドラマから目を離せず

ぬいぐるみや雑貨を手にした人たちが「かわいい」を連発していた。昨年末、福岡市・天神の「キデイランド福岡パルコ店」。
マウスパッドを購入した男性(39)は「職場でブームです」。満杯の買い物かごを持った山口県下関市の花牟礼美紅さん(25)は「キャラに共感する」。
熊本市の内科医、田中健太郎さん(38)は3年前、知人のSNS投稿で「ちいかわ」を知ったという。
主人公は管理された世界に住む従順な大衆の1人。草むしりなどで生計を立て、パック寿司(ずし)はささやかなぜいたく。大きな幸運が訪れるどころか、むしろ事件に巻き込まれたりと、恐怖や悲劇が降りかかる。生死や社会の闇、人生のままならなさを巡るドラマが繰り広げられる点は、なんとなく現実世界にも似る。「『かわいそう』で感動したい」という心を見透かされた気がして、最初は距離を置いた。しかしスマホを開けば投稿が目に入ってきて「逃れられなかった」。
「ファンシーの皮をかぶったホラー。かわいいキャラたちが、次はどんな目に遭うのか…」。癒やしとスリルの連続が癖になったと田中さん。今では最新話やアニメもチェックし、動画サイトで主題歌のギター弾き語りを披露するほどのファンとなっている。
一方、低賃金で労働するキャラ設定も前例がない。「頑張っても生活が良くならない現状を重ねて、癒やされる人が少なくないのでは」と受け手の心理状況を考察する。ただし「単なる自己投影の対象ではない」とも。ちいかわのそばにはいつも「うさぎ」や「ハチワレ」といった、かけがえのない友達がいるからだ。
リアルな連帯が薄れて孤立が進む今、共に泣き笑い、励まし合う存在となる「理想」もさりげなく描くちいかわ。現代人が連発する「かわいい」の正体は、現実と理想のはざまで心を補ってくれる「お守り」のようなものかもしれない。

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