戦争準備か、社会不安への備えか? 中国企業が民兵増強


2024.02.23 Fri posted at 17:16 JST

香港(CNN) 中国企業が、1970年代以降ほとんど見られなかった行動を取っている。志願制による自前の軍隊の創設だ。民間の乳業大手を含む中国の大企業少なくとも16社が、過去1年間でそうした軍隊を立ち上げた。CNNが国営メディアの報道を分析して明らかにした。

「人民武装部」として知られるこうした部隊は、通常の仕事を持つ民間人で構成される。彼らは世界最大の中国軍の予備部隊、補助軍として活動。自然災害への対応や「社会秩序」の維持への協力、戦時の支援提供など、その任務は多岐にわたる。

企業によるこうした部隊の創設は、国外での紛争や国内の社会不安、経済の苦境に対する中国政府の懸念の高まりを浮き彫りにすると、アナリストらは指摘する。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)対策や、習近平(シーチンピン)国家主席による共産党支配の強化に向けた取り組みの一環とも目されている。支配の対象は企業部門を含む中国社会とみられる。

米シンクタンク、アジア・ソサイエティ政策研究所の中国分析センターで中国政治を研究するフェロー、ニール・トーマス氏は「企業民兵の再来は、習氏が経済発展と国家安全保障とをより高度に統合する必要性に一段と注力していることの表れだ。中国はより困難な未来に直面している。成長が鈍化する中で、地政学的な競争は増大しつつある」と指摘した。

「軍の指揮下にある企業民兵の助けを借りれば、共産党はより効果的に社会不安に関わる事案を抑え込むことができるかもしれない。具体的には消費者による抗議デモや従業員のストライキなどだ」(トーマス氏)

不満の高まりを受け、抗議デモも拡大しているようだ。労働者によるデモやストライキの2023年の件数は、22年の830件から1794件へと、2倍以上に跳ね上がった。労働者の抗議行動を監視する香港の非営利団体、中国労工通報(CLB)のデータで明らかになった。

これまで、民兵の所有を公表している企業の大部分は国営企業だった。これらの企業は中央政府や地方政府が直接保有している。

ところが昨年12月、世界5位の乳製品メーカー、伊利集団が中国の大手民間企業としては近年で初めて、人民武装部を設置した。

直近の証券取引所への提出文書によれば中国国家は伊利の支配的な株主とはなっておらず、本社のあるフフホト市が8.5%の株を保有している。

設置当時、同社は部隊の精強さやどのような層の従業員が加入しているかの詳細を一切明らかにしなかった。中国の法律によれば男性の民兵構成員の年齢は18~35歳と規定されているが、特殊技能を有する人の場合はある程度柔軟な適用がなされる。女性の加入も可能だが、年齢の要件は法律で示されていない。

9月には、政府所有の不動産開発・建設業者である上海城投集団が人民武装部を立ち上げた。管轄を担当するのは人民解放軍の上海守備隊。上海の共産党機関紙、解放日報が明らかにした。

同守備隊の司令官は、民兵組織が人民解放軍を支援する存在になるだろうと指摘。具体的には復員兵への雇用の提供や、新兵の補充といった領域で役割を果たすことになるとした。

このほか少なくとも14社の国有企業が、昨年人民武装部を同様に創設した。CNNが国営企業の報告を分析して明らかにした。

昨年10月、中国国防相の報道官は、国営企業での民兵設置を後押しすることで、「国防の進展強化」を図っていると説明した。

https://www.cnn.co.jp/business/35215619.html