住民の帰還が進まない東京電力福島第1原発事故の被災地で、政府は産業基盤を構築する国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」を進めている。その司令塔役を担い、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」と掲げられた「福島国際研究教育機構」(F-REI、エフレイ)が2023年4月、福島県浪江町で産声を上げた。

 今年2月23日、同県いわき市。エフレイの研究成果を報告する初めてのフォーラムが開かれた。

 「復興、再生、まちづくりに向けた研究活動をさらに強めるきっかけになれば非常にありがたい」。エフレイの山崎光悦理事長(72)は能登半島地震で実家のある富山県にも大きな被害が出たことに触れながら、あいさつした。続いて、森林などの環境中の放射性セシウムの動きを解析する研究者らが登壇した。

 エフレイは、福島の「F」と「Research(研究)」「Education(教育)」「Innovation(革新)」の頭文字から取った略称。国が新たに設立した特別法人で、岸田文雄首相が初代理事長として前金沢大学長の山崎氏を任命した。

 研究分野は①ロボット②農林水産業③エネルギー④放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の五つだ。

 29年度まで復興予算から総額約1000億円を投じ、30年度までに施設を整備する予定で、JR浪江駅西口の約17ヘクタールの敷地に実験施設や会議室、ホール、短期宿泊施設などが建ち並ぶことになる。

 23年4月には予定地近くに仮事務所を設けた。当面の研究はエフレイが外部委託する形で進め、今年2月末時点で12の委託研究が始まった。目標では、研究グループを段階的に増やし29年度までに約50グループとする。
研究者も500人程度を想定し、このうち3分の1は海外から呼び込むつもりだ。

 だが、研究者の獲得競争が世界規模で激化する中、優秀な研究者を集めることができるのか。

 エフレイの設置に向けた復興庁の有識者会議でヒアリングを受けた東京大の秋光信佳教授(放射線影響学)は取材に、「施設がない現段階で海外の研究者が魅力に感じるかと言われれば無理だろう。国内の研究者をある程度確保し、体制を整えるしかない」との見方を示す。

 山崎理事長によると、初年度となる23年度の事業計画の達成度は目標の6割程度にとどまるという。委託研究事業の契約数が想定の半分ほどだったからだ。

 その背景について、山崎理事長は「エフレイが示す研究方針に沿った申請が想定より少なかった」と吐露する。今月にはロボットとエネルギーの各分野の研究リーダーの公募を始めた。固定給は最大約3500万円で、国の研究機関としてはトップ級だが、若干名ずつの募集に何人が集まるかは未知数だ。山崎理事長は「公募だけではなく、エフレイ側から直接研究者を勧誘していかないと体制は整わないかもしれない」と話す。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e110bae01edd3e8d14a59aec3fe4c2e43712914a

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