こういう店に来たことは初めてなんです。テーブルマナーを知りません。
と答えた

最悪だった。元々彼女は下町育ち。
フレンチよりも焼き鳥、ワインよりもビールが好きな人だった。
自分を良く見せようと言うバカな考えばかりが先行して、彼女のことをまるで考えてなかった。
自分自身、フレンチのテーブルマナーは接待用に学んだもので、高級レストランはどちらかと言えば堅苦しさを感じる故に苦手であった。
身の丈に合ってないことをしたばかりに彼女を傷付けたと猛省した。
その時、料理が来てしまった。

どう手を付けたら良いか迷ってる彼女を見て、思わずフォークを掴み器を持ち上げ親子丼をかき込むようにオードブルを平らげた。
彼女だけに恥をかかせるのはと思って咄嗟にした行動だったのだが、彼女は笑ってくれた。
一緒にフレンチをかき込むように食べてくれた。
美味しかった。
彼女も美味しいと笑ってくれた。
嬉しかった。

他の客の視線が痛かったが、怪我の功名とはこのことかと思っていたその時、視界が赤くなった。
後ろのテーブルに居た初老の男に頭からワインをかけられた。
ここはマナーも知らない若造が来るところじゃないんだよと責められた。
ぐうの音も出なかった。

>3につづく