【ウクライナでの戦争の現実】国立大学で日本語を教える53歳男性が、ある日上司から「召集令状」を手渡され...「お父さん、死なないで!」
ある日、勤務先で突然手渡された「召集令状」。愛国心は人一倍ある。しかし一方で、なぜ自分がという気持ちも……。53歳、人生の後半に出征を命じられた、あるウクライナ人エリートの葛藤の記録。
よどみない日本語で話す彼の口調からは、ウクライナ人であることに誇りを持ち、国のために戦う覚悟をすでに持っているように感じられた。
「ウクライナ人にはコサック(騎馬武装集団)の血が流れています。だから私たちは絶対に降参しない。ロシアに勝つべきだ」
「国境で賄賂を払ってウクライナを出国する男たちは腰が引けている。どうみても裏切り者だよね。いくら自分の命が大事だとはいえ、逃げ出すのは恥ずかしくないのか」
イゴルさんは温厚な人柄だが、ウクライナ人のアイデンティティーに話が及ぶと、強い信念のようなものが滲み出る。
「戦争は終わるべきです。すべての物事には始まりと終わりがある。だから必ず終わります」
そう断言していた本人が、その1年後には戦場へ駆り出されるという現実が起きてしまった—。
「その日」は唐突に訪れた。今年2月、ウクライナ日本センターがある大学の図書館で、上司の館長から「行ってきて下さい」と文書を手渡された。目を通すと、徴兵検査について記されていた。
「文書を渡されたのは金曜日だったので、週明けまで考えました」
ウクライナ人の妻(45歳)に伝えると、涙ながらにこう懇願された。
「嫌だ、行かないで! あなたが戦場に行ったら私はどうなるの?」
日本にいる前妻との間の娘(14歳)からも、電話口で泣きつかれた。
「お父さん、死なないで!」
家族の思いには胸が締め付けられたが、上司からの伝達を断ることはできなかったと、イゴルさんは回想する。
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