能登半島地震、途上国からSNSに大量偽情報…X利用が1日4000万人の日本向け「インプ狙い」
2024/03/25 05:02


パキスタンの首都イスラマバードから車で3時間余り離れた地方都市サルゴダ。緑の多いのどかな町の一角に男性(39)のレンガ造りの自宅はある。

 1月1日。自宅にいた男性がいつものようにスマホでX(旧ツイッター)の投稿を眺めていると、現地語で<日本><地震>という言葉が目に入った。黒々とした濁流が船や車をのみ込んでいく動画もあった。

 「日本で大変なことが起きている」と思った。同時に濁流の動画を添付した投稿の閲覧数に目を奪われた。数十万回に上るものもある。「金もうけのチャンスだ」――。すぐに同じ濁流の動画を投稿した。ネットで見つけた倒壊家屋や土砂崩れの画像も拡散した。能登地震に関係があるか。それはどうでもよかった。


 男性は大学卒業後、18年間公務員を務めた。親族約10人で暮らし、生活は安定していたが、医師を目指す長男(16)のため、さらに稼ぐ必要があった。昨年10月、新たなビジネスを起こして一獲千金を狙うため、公務員をやめた。

 <これからはXで生計が立てられるようになる>

 Xオーナーのイーロン・マスク氏がそう語る記事を読んだのはその頃だ。Xは昨夏、〈1〉500人以上にフォローされている〈2〉過去3か月間の投稿が500万回以上閲覧されている――などの条件を満たす利用者に、広告収益の分配を始めた。早速、アカウントを開設し、1日5回の礼拝や食事の時間を除く6~7時間を投稿に費やすようになった。

 当初は閲覧数が伸び悩んだ。だが、機械翻訳を駆使して能登地震に関わる投稿を始めると、すぐに360万回に達した。日本の1日あたりのX利用者は4000万人以上とされる。「友人から世界2位のXの市場と聞き、日本向けの発信を強めた」。やがて収益を受け取る権利を得た。

 地震から1か月がたった2月1日。初めてXからお金が送られてきた。Xの決済システムはパキスタンでは使えないため、他国の銀行口座に振り込んでもらった。手にしたのは37ドル(約5600円)。パキスタンの平均年収は1600ドル程度だ。「もっと欲しい」と思った。

 男性が拡散した濁流の動画は、2011年の東日本大震災時に撮影されたものだった。記者がそう追及すると「そんなことは知らない。私はインプレッションが欲しかっただけだ」と言い切った。「日本に申し訳ないことをしたと思う。しかし、これからも投稿を続け、お金をもうけたい」


以下略
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240324-OYT1T50108/