ブッダという男 ―初期仏典を読みとく 清水俊史著:中外日報
https://www.chugainippoh.co.jp/article/kanren/books/20240322-003.html
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初期仏典(経蔵・律蔵・論蔵)などを丹念に読み解き、2500年前のブッダの先駆性を問い直す。差別や戦争などを否定した平和主義者と評価する従来のブッダ論を再検討した上で、いずれも歴史から引き離された解釈だったことを明らかにしようと試みる。

本書では、主に従来のブッダ研究の方法論上の問題点を取り上げている。多くの仏教学者はブッダを考察する際、初期仏典に含まれている神話的要素を取り除いた。その結果「男女平等を説いた平等主義者」と評価する解釈が生まれたが、著者は「ブッダやイエスが生きた時代に、現代的な意味での平等主義やフェミニズムといった価値観は存在しなかった」と批判する。

従来の方法論による研究では、分析の際に初期仏典の韻文部分が多く用いられてきた。しかし当時の仏教徒は仏法が歪められる恐れがあるとし、韻文を権威ある聖典として認めなかったと指摘。ブッダの先駆性を再考するには、散文資料やバラモン教などの他宗教の聖典を読み解く必要性があると説く。

他宗教に吸収されず瞑想や苦行を否定し、知恵による解脱で世界を認識できるとした点に、ブッダの独自性を見る。後書きでは他の学者による著者へのアカデミックハラスメントや出版妨害の経緯についても触れている。

定価968円、筑摩書房(電話03・5687・2601)刊。