https://www.tmd.ac.jp/press-release/20240403-1/

 公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)の
内田ラボ(ラボ長:内田智士・主幹研究員/東京医科歯科大学難治疾患研究所教授)は、東京都医学総合研究所、東京医科歯科大学、
杏林大学および NANO MRNA株式会社と共同で、殻でくるまないmRNA(裸のmRNA)の皮内投与による SARS-CoV-2ウイルスに対する
霊長類でのワクチン効果の実証に成功しました。mRNAは大変不安定な化合物で、脂質性ナノ粒子 (LNP) など殻にくるんで投与することが
不可欠とされてきました。今回報告する方法は、その常識を覆し、裸のmRNAを用いてSARS-CoV-2に有効性を示した世界初の
mRNAワクチンとなります。全身性の有害事象とも関連する可能性が高いLNPを用いていないため、何度でも繰り返し気軽に接種できる
安全なmRNAワクチンになることが期待されます。現在、臨床試験に向けた開発が進んでおります。詳細な研究成果は、日本時間で
2024年4月3日に国際的医学誌 Molecular Therapy でオンライン掲載されました(注1)。本論文は、オープンアクセス化しており、
誰でも無料で入手できます。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対して、mRNAワクチンが優れた有効性を示し、世界中で何十億回と接種が
行われました。しかしながら、急速な開発の裏で課題も顕在化していて、特に、重篤なものを含む比較的強い副反応が大きな課題となります。
この副反応は、パンデミック時の数回程度の接種であれば許容されるものの、今後のCOVID-19に対する度重なるブースター接種や、
他の感染症へのmRNAワクチンの適応を考えると、生涯にわたって数十回接種できるようなより安全性の高いプラットフォームが望まれます。
現在使用されている mRNAワクチンでは、mRNAを搭載している脂質性ナノ粒子(lipid nanoparticle : LNP, 注2)が、副反応の原因の一つとして
挙げられています。LNPを構成する脂質は、免疫刺激性を持つほか、投与部位から漏出して全身に分布するため、全身性の炎症反応を惹起します。
一方で、LNPワクチンは、【機能I】mRNAの分解を防ぎ、細胞内へ効率的にmRNAを送達する機能、【機能II】リンパ節に移行し免疫細胞に
mRNAを送達する機能、【機能III】免疫刺激性脂質に起因する炎症反応が免疫系を刺激する機能といったワクチンの作用上重要な機能を有しています。
これらの機能を、LNPを用いることなく如何に再現するかが重要となります。

 今回、最もシンプルで安全な設計である「裸のmRNA」の投与を検討しました。【機能II】に関して、現在のワクチンの接種部位である筋肉組織には
免疫細胞がほとんど存在しません。そこで、免疫細胞がより豊富である皮膚組織を標的としました。さらに、【機能I】を補うために、圧を用いて
mRNA溶液を細胞内に送達できるジェットインジェクター(注3)を用いました。実際に、レポーター試験(注4)では、ジェットインジェクターを用いることで、
mRNAの皮膚組織内への送達効率が100倍以上向上しました。さらに、mRNAは投与部位に留まり、全身への漏出は確認されませんでした。
>>2以降に続きます)