ウクライナのNGO「ディテクター・メディア」のクセーニア・イリュークによれば、ウクライナを「ナチス」と批判するロシア国内向けの論理は国際社会には十分には受け入れられなかったため、
ロシア政府はその後、ウクライナを「ナチス」よりも、「テロリスト」と非難する戦術に切り替えているという。
論拠として薄弱であることを、ロシア当局が暗に認めている格好だ。

 ただ、それでもこの主張が一定程度、ロシア国内、またウクライナ東部で機能していた事実を見逃すことはできない。

 ウクライナ人がナチス──という論法をロシアが展開した背景には、何があるのか。

 それは、前述したバンデラのような人物がウクライナ西部を中心に高く評価されている点や、そのような現実がウクライナ東西の対立を引き起こしている実態がある、といったウクライナ国内の事情だけではない。
ロシア国内では、第二次世界大戦でのナチス・ドイツとの戦いの悲惨な記憶が繰り返し強調され、〝ナチス〟という言葉に国民の多くが敏感に反応するほど意識が掻き立てられている。
その心理を、ロシア当局は巧みに突いている。

 第二次世界大戦でナチス・ドイツと戦った旧ソ連は軍人、民間人を合わせて約2600万人もの死者を出したとされる。
ロシアのあらゆる家庭において、第二次世界大戦により自分の祖先やその周辺で家族や友人を失っている。
一方でロシア政府は、そのナチスと悲惨な戦争を行い、かつ勝利したという記憶を、国威発揚の手段として最大限に利用し続けている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c573200818138edee17755439d48518b4ef1a60a?page=3