「書類事が苦手なので、四月に亡くなって、翌年の二月までに相続手続きもしないといけなかったんですが、ぎりぎり十二月に司法書士さんと打合せをして、二月までになんとか終わらせたんです」
司法書士からもらったという、「相続人様へのお願い書」というのを見せてもらった。書類事が苦手なSは、父親の側近二人に同席してもらい、確認作業をしてもらった。
「必要な書類とか証明書が、ほんとにこれでいいのかとかも、私にはわからなかったので、いてくれてほんとうに助かりました」
一人っ子だから相続は簡単だが、書類事が苦手な上に、父親の半介護で心身ボロボロの状態だった。
「会社と個人と両方、同じ会計士さんに頼んでいたので、言われるままレシートを揃えてお渡ししました」

一緒に住んでいたため、家の相続税は減税対象だったが、問題はそのマンションが借金の担保に入っているかいないかだった。
「会社経営のため、家も生命保険も資金繰りに使ってたんです。だから、もし借金しか残らなかったら財産放棄しようと思ってたんですが、死ぬ直前に家だけは担保から外れていたんです」
そのためSは実家に住み続けられることになった。
「それがわかるまでは、出てかなきゃならないのかなという不安で、これから先のことなんか考えられなかった」

「一人娘が住むところぐらいなきゃいけないと、父も心配していたようですが、実際には後継者であるO氏が尽力してくださったんです」
葬儀や相続手続きでかかった費用と遺産はトントンだったが、のちに会社が死亡退職金を出してくれた。
「それを樹木葬の費用と、私のリハビリ代と、休職の費用に充てようと思っています」
介護ウツと、介護のため負った肩腱板損傷の治療費だ。
Sはしばらく休んでいた仕事に戻った。いまは通勤に駅まで三十分歩き、一日ハードに仕事をし、元気を取り戻しているという。