中国の友人の皆さん,私はただいま御紹介にあずかりました日本社会党訪中使節団の団長浅沼稲次郎であります。私どもは一昨年四月まいりまして今回が二回目であります。
一昨年まいりましたときも人民外交学会の要請で講演をやりましたが 今回はまた講演の機会をあたえられましたので要請されるままにこの演壇に立ちました。
つきましては私はみなさんに,日本社会党が祖国日本の完全独立と平和,さらにはアジアの平和についていかに考えているかを卒直に申しあげたいと存じます。(拍手)

 今日世界の情勢をみますならば,二年前私ども使節団が中国を訪問した一九五七年四月以後の世界の情勢は変化をいたしました。
毛沢東先生はこれを,東風が西風を圧倒しているという適切な言葉で表現されていますが,いまではこの言葉は中国のみでなく世界的な言葉になっています。
いま世界では,平和と民主主義をもとめる勢力の増大,なかんずくアジア,アフリカにおける反植民地,反帝国主義の高揚は決定的な力となった大勢を示しています。(拍手)
もはや帝国主義国家の植民地体制は崩さりつつあります。がしかし極東においてもまだ油断できない国際緊張の要因もあります。
それは金門,馬祖島の問題であきらかになったように,中国の一部である台湾にはアメリカの軍事基地があり,そしてわが日本の本土と沖縄においてもアメリカの軍事基地があります。
しかも,これがしだいに大小の核兵器でかためられようとしているのであります。
日中両国民はこの点において,アジアにおける核非武装をかちとり外国の軍事基地の撤廃をたたかいとるという共通の重大な課題をもっているわけであります。
台湾は中国の一部であり,沖縄は日本の一部であります。それにもかかわらずそれぞれの本土から分離されているのはアメリカ帝国主義のためであります。
アメリカ帝国主義についておたがいは共同の敵とみなしてたたかわなければならないと思います。(拍手)

 この帝国主義に従属しているばかりでなく,この力をかりて,反省のない,ふたたび致命的にまちがった外交政策をもってアジアにのぞんでいるのが岸内閣の外交政策であります。
それは昨年末とくに日米軍事同盟の性格を有する日米安保条約の改定と強化をし,更に将来はNEATOの体制の強化へと向わんとする危険な動きであります。
この動きは中国との友好と国交正常化を阻害しようとする動きでもあります。
これらの動きはあるいは警職法反対の日本国民のたたかいや平和を要求する国民の勢力によって動揺しつつあるが,しかし,これが今日日中関係の不幸な原因を作っている根本になっています。
以上の日米安保条約の改定と日中関係の不幸な状態とは,いずれも関係しあって岸内閣の基本的外交方針であり,アメリカ追随の岸内閣の車の両輪であります。
それは昨年末のNBCブラウン記者にたいする岸信介の放言において彼みずからがこれをはっきりと裏書きしております。
これらの政策を根本的に転換させてアジアに平和体制を作る方向に向わないかぎり,日本国民に明るい前途はなく,ここにもまた日中両国民にとって緊急かつ共通の課題がございます。

 このような問題をいかに解決するかという点に関し中日関係について申上げまするならば,昨年五月いらい岸内閣の政策によって中日関係はきわめて困難な事態におちいりました。
それまでは,国交回復はおこなわれていないにかかわらず,中国と日本においてはさきに私と張奚若先生との共同声明をはじめとしまして数十にあまる友好と交流の協定を結び,日本国民もまた国交回復をめざしながら懸命に交流,友好の努力をつみかさねてまいりました。
しかしついに中絶状態におちいったのであります。このことにつきましては日本国民は非常な悲しみを感じ,かつ岸内閣に鋭い怒りを感じているものであります。(拍手)
ここでわが党の参議院議員佐多忠隆君が貴国を訪問して三原則,三措置,すなわち,
(1)ただちに中国を敵視する言動と行動を中止しふたたびくりかえさないこと,
(2)二つの中国をつくる陰謀をやめること,
(3)中日両国の正常な関係の回復をはばまないこと−これを受けとり,これを正確に国民大衆につたえたのであります。

全文
https://worldjpn.net/documents/texts/JPCH/19590312.S1J.html

浅沼稲次郎刺殺(1960年) 死の特ダネ、心苦しかった<一枚のものがたり>吉武敬能
2023年10月14日 07時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/283682