3.日本銀行はどの程度利上げすれば逆ザヤになるのか

本題に入ろう。日銀がどの程度利上げをすれば逆ザヤになるのか、上記で紹介しなかった利払いを確認すると、2023年3月末時点の日銀当座預金は549.1兆円、それに対する利払いに当たる2022年度の「補完当座預金制度利息」等は2,138億円である(平均利息を算出すると0.04%)。日銀の場合、超過準備の一部にマイナス0.1%を課すマイナス金利政策を2016年から導入しているほか、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」や「貸出促進付利制度」などによって付利構造がかなり複雑になっているため、逆ザヤのシミュレーションを行う場合はこうした付利構造をどう扱うかが最初の課題となる。
ちなみに、FRBでは準備預金に対して共通の付利を設定しており、かつて付利のことを超過準備に対する付利という意味で、IOER(Interest on Excess Reserves)と呼んでいたが、現在ではIORB(Interest on Reserve Balances)と呼んでいる。以下のシミュレーションでも、FRBのようなできるだけシンプルな付利構造を前提とする。具体的には、利上げのシミュレーションなので、当然、マイナス金利は解除されていると考え、所要準備額(12兆円と仮定)を除く日銀当座預金全体に共通の付利が設定されると仮定した。
その下で、最初に試算したのは日銀の長期国債保有残高と日銀当座預金を2023年3月末の水準で一定と置き、付利が何%になれば、逆ザヤや債務超過が発生するか、結果は図2に示した通りである。付利が0.25%に上昇すると「補完当座預金制度利息」等が1.34兆円となり、「国債利息」1.33兆円を上回る逆ザヤが発生する。さらに、付利1.0%を3年続けると累積損失額が自己資本(資本金1億円、法定準備金等3.5兆円、引当金勘定8.3兆円)を上回る債務超過となり、付利が2.2%なら単年度でも損失額が自己資本を上回る。このように、FRBより相当早い段階で逆ザヤや債務超過が発生することが確認できる。

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4360#h_3