レイオフの人選も続いていた。リストに書かれた人の中からふたりまで絞りこんだ。ベンとジョスリンだ。ベンは30代半ばで、ヴァイス・プレジデントになってからもう長い。ブライアンの下で働いていて、子どもがふたりいる。ジョスリンはジュニア・アソシエイト。20代半ばで独身、私の部下だ。評価スコアはベンよりジョスリンのほうが上だが、給料はベンのほうがかなり高かった。私から見れば、答えは明白だった。お腹の中の双子が強く膀胱を蹴とばしてくる。尿漏れの心配をしながら言った。

 「辞めてもらうのはベンですね」

 ジェームズが首を振った。「いや、ジョスリンだ」彼があざけるように言う。「ベンには専業主婦の奥さんと、ふたりの子どもがいるんだ。ジョスリンは独身だから、養わなくちゃならない家族はいない」

 私は驚きで目を見開き、口をあんぐりと開けた。ゴールドマンは常日頃、実力主義の会社だと宣伝している。成功するも失敗するも個人の実力しだいで、既婚未婚、子どもの有無は関係ないと謳っている。私はテーブルを囲んでいる面子をざっと見た。私を除いて全員が男性。みんな無表情のままマイクを見つめている。

 「きみの言うとおりだ、ジェームズ」マイクがうなずいた。「養う家族がいる社員をクビにするわけにはいかない。ジョスリンに辞めてもらう。ミーティングはこれで終わり。ご苦労さん」あっさりそう言うと、マイクは立ち上がって部屋を出ていった。ほかのみんなも急ぎ足で後を追い、自分の席に戻っていった。

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