では実際の「鍋の素」の原材料をもとに、どのようなコスト感覚でつくられているかを検証していきましょう。

下記は、とある「キムチ鍋の素」の原材料です。

「キムチ鍋の素」の正体は?
★キムチ鍋の素
アミノ酸液、果糖ぶどう糖液糖、みそ、食塩、醸造酢、魚醤(魚介類)、にんにく、唐辛子、ごま油、トウバンジャン、たんぱく加水分解物、野菜エキス、酸味料、ポークエキス、チキンエキス、煮干し粉末、酵母エキス、調味料(アミノ酸等)、パプリカ色素、増粘剤(キサンタンガム)*メーカーによって違いがあります
ここで注目すべきは「アミノ酸液」です。これは簡単に言えば「たんぱく加水分解物」の液体のもの。「たんぱく加水分解物」とは、たんぱく質を塩酸分解して作るうま味の素です。

「アミノ酸液」は脱脂大豆を塩酸で分解して作る調味液で、しょうゆの置き換えとして使われます。

なぜしょうゆを使わずに「アミノ酸液」を使うのか、それはひとえに「コスト」の問題です。アミノ酸液はだいたい1リット100〜200円程度ですから、しょうゆを使うよりはるかにコスト安になります。

この「アミノ酸液」、味はどうかというと、たしかにしょうゆのような味ですが、「独特の味」とにおいがあります。私の表現では「もわっとして、とげとげしい味」。しょうゆが持つまろやかさには、とても及びません。でも他の調味料と混ぜればごまかすことができます

『食品の裏側』で詳しく紹介し、「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」でも述べたことですが、「@食塩(精製塩)」「A調味料(化学調味料)」「Bたんぱく加水分解物」という、うま味のベース(黄金トリオ)がそろえば、味がしっかり決まり、簡単に「おいしい」と思える味を人工的に作り出せるのです。

それから「醸造酢」にも注目してください。これは小麦やトウモロコシを使った穀物酢で、『安部ごはん』で「魔法の調味料」を作る時に推奨している「米酢」より、はるかにコストが安い。つまり「米酢の置き換え」で使われるのです。

そしてなんといってもこの「キムチ鍋の素」には、「キムチ」が使われていません。

「黄金トリオ」と「ポークエキス」「チキンエキス」「トウバンジャン」「酸味料」で「キムチ鍋風の味」を出しているだけ。「パプリカ色素」が使われているのは、キムチっぽい色を出すためでしょう。

保存の問題があるし、「液状」にしないといけないから、「鍋の素」に本物のキムチは使えないのです。

しかし、このキムチ鍋、目隠しの状態で口に入れられたら、「キムチ鍋」とわからない人が多いのではないでしょうか。動物性のだしの入ったスンドゥブみたいなものに間違えるような気がします。

キムチのおいしさは「乳酸発酵」にあります。「乳酸のさっぱりした酸味」がおいしさのカギですが、このキムチ鍋にはそれがない。私の考えるキムチ鍋とは別モノです。


もうひとつ見ていきましょう。「野菜たっぷり寄せ鍋」です。

★野菜たっぷり寄せ鍋の素
たんぱく加水分解物(大豆を含む)、ブドウ糖果糖液糖、しょうゆ、米発酵調味料、かつおぶしエキス、食塩、魚介エキス(えびを含む)、野菜エキス、酵母エキス/調味料(アミノ酸等)、増粘剤(キサンタン) *メーカーによって違いがあります
これも「たんぱく加水分解物」「食塩」「調味料(アミノ酸等)」がそろい踏み。典型的な「黄金トリオ」です。あとは「エキス類」を使って味を補っています。

それから「米発酵調味料」。これは本みりんの代わりに使います。米をアルコール発酵させて、「水あめ」「うま味調味料」「酸味料」などで味を調えたものです。

もち米を焼酎の中で糖化して作る「本みりん」とは、味も風味も異なります。でも本みりんに比べたら、コストはだいたい10分の1程度と、ぐんと安上がりでできるのです。


https://toyokeizai.net/articles/-/507304
もちろん私は「鍋の素」を買ってはいけないと言っているのではありません。忙しいとか、味のバリエーションを増やしたいとか、それなりの理由があるときは使ってもいいと思います。

ただ、私が言いたいのは「鍋をするときは『鍋の素』を使うのが当たり前」というのは思い込みにすぎないということです。

「鍋の素」を買わなくても、家にある調味料で十分、おいしい鍋ができます。

『安部ごはん』では、私が開発した「魔法の調味料」のひとつ「かえし(しょうゆと砂糖を合わせて寝かせたもの)」と「和だし」、それに酒で具材をサッと煮るだけで作れる「野菜たっぷり節約鍋」を紹介しています。「かえし」と「和だし」だけ用意しておけば、10分で簡単に作れます。