戸籍の「性別変更」で保険料が上がる? 「次男」と記された戸籍の支配に怒りが湧き上がった 〈dot.〉(AERA dot.)
https://news.yahoo.co.jp/articles/654cfe4327f4fc42e7473e0a2c7907f3ede61844

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今回私は初めて知ったのだが、治療を受けた人が全員性別変更をするわけではない。むしろしない人のほうが多かった。なぜなら「診断」は下りたが、手術をするには経済的な負担があまりにも重いからだ。さらに以前は、性器の写真を提出することを求める裁判所があるなど人権侵害も甚だしく、心理的なハードルも高かった。そのAさんが50代になって「性別変更」を求めたのは、パートナーとの老後のことを考えてのことだ。戸籍上の女と女での生活では、二人の関係を保障するものは何もない。同性婚成立を待ちたい気持ちもあるが、先のことを考えると不安が募ったのだという。

結論からいえば、Aさんの訴えは受け入れられた。家裁の職員は書類不備を言い続けたが、戸籍問題の専門家である井戸まさえ氏が、今の法律では取りこぼされる問題について耳を傾けてくれ、立憲民主党の徳永久志議員が質問主意書を提出し、カルテ不在の当事者たちのために動いてくれた。また共産党の山添拓議員は、「これはAさんだけの問題ではない」と丁寧に向き合ってくれ、厚労省の職員との面談の場を設けてくれた。もちろんAさん自身が家裁の事務官に「私だけじゃない! こういう当事者はたくさんいるんだ!」と電話で訴え続け、結果的には「特例」として性別変更が認められることになったのだ。権利のために諦めず声をあげたAさんが出した結果が、カルテ不在のGID当事者の性別変更の前例になればと心から願う。

それにしても性別変更が無事済んだかと思えば、その後の手続きも想定外のことが続いた。例えば戸籍である。Aさんは「次女」として戸籍に記されているのだが、今回、戸籍上の性別が男性になったことでAさんは「次男」として記されることになった。え? 長男じゃないんだ!! と誰もが驚いた(長男のいない次男……ということになるが、そういう論理性よりも戸籍のお作法が優先されるらしい)。また、女性として生まれたことは戸籍上からは消されなかった。性別変更して戸籍がゼロから男性としてつくりなおされるのではなく、女から男になった日付が戸籍に記録されるだけだった。

さらに、生命保険や医療保険の取り扱いにも驚いた。Aさんはいくつか保険に入っているが、某大手保険会社は「男性になったので保険料が上がります」と言ってきたそうだ。「私は生物学的には女性です。職業も変わっていません」と反論したが、「男性の保険料は上がります」の一点張りだったそうだ。一方、別の大手保険会社はシンプルに「お客様の身体は女性のままなので保険内容は変わりません」と言ってきたとのことだった。

なにより驚愕したのは薬の扱いである。Aさんは卵巣摘出後に更年期障害症状に苦しみ、更年期の女性が受けるのと同じ治療を受けている。ところが性別が男性になったので、今後は更年期障害の治療は保険適用で受けられなくなると告げられたのだった。「これからは全て自費になるよ」と申し訳なさそうに伝えてきた医師は、「女性のままでよかったのかもね……」と思わず口にしてハッとしたような顔をしたそうだ。

Aさんの身に降りかかる「性別変更」をめぐるあれこれに伴走しながら、いったい「性別」とは何よ……という思いにもなる。

(後略