高級ブドウ「シャインマスカット」中国への無断流出は推計で年間100億円の損失(重道武司)

開発に費やした18年にも及ぶ歳月が徒労になりかねない事態だ。大粒で甘みが強いことで知られる高級ブドウ「シャインマスカット」。その中国への無断流出で年間100億円以上の損失が日本に生じているという。

農林水産省がこのほど行った試算で明らかになったもので、中国での栽培面積は2020年時点の推計値ですでに5.3万ヘクタールに達し、日本(1840ヘクタール)の約29倍。しかも「ますます拡大している」(農水省幹部)という。収穫後は「多くがASEANなど第三国に輸出されている」(前出の農水省幹部)もようだ。

■品種登録まで18年かかったのに

シャインマスカットは国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹研究所(旧国立果樹試験場)が開発した品種だ。ヨーロッパブドウとアメリカブドウを何世代にもわたり交配に交配を重ねて商品化にこぎつけた。試験の開始から06年の品種登録まで18年かかり、13人の研究者が携わった。

農産物の品種を保護することを目的に制定された「種苗法」では新品種の開発者に「育成権」という知的財産権が与えられることになっている。新品種を栽培しようと思えば開発者に利用料を支払うか権利を購入する必要がある。農水省では今回、中国側の推定出荷量をもとに、仮に同国の生産者が正式に種苗を購入していれば日本側が受け取れていたハズの育成権の許諾権料を推計した。

シャインマスカットは21年4月の種苗法改正を受けて農水省が策定した1975品種の持ち出し禁止リスト入り。イチゴの「あまおう」、リンゴの「紅いわて」やコメの「ゆめぴりか」などとともに現在は原則、海外への持ち出しが禁じられている。ただ品種に対する海外での高い評価に目をつけた中国側によって「法改正前の16年ごろから無断で持ち出され、不正に栽培されていった」(農研機構関係者)とみられる。

無論、日本側とてこのまま手をこまねいているわけではない。事態の再発を防ぐため農水省では、開発者に代わって知的財産権の保護・管理を担う専門組織の創設を検討中。流出経路の監視などのほか、「権利の買い上げも視野に入れる」(農水省筋)としており、23年にも立ち上げたい考えだ。とはいえ、覆水盆に返らず。一度流出してしまったものを取り戻せるわけではない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bf46cfa32de67dbf43f281a16f518b5af87f8e8b