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パチンコ業界に変革の波、スマート遊技機導入で逆戻りが懸念される依存症対策
射幸性と依存症とのバランスをどう取るか、業界の難しいかじ取りが続く

「スマート遊技機」導入の最大の狙いとは?
 外壁には液晶ディスプレイが煌々と灯り、立ち並ぶ「新台入替」ののぼり、開いたドアの隙間からは騒々しい物音が聞こえてくる──。

 外から見たパチンコ店は従来通りの様子だが、実はパチンコ・パチスロ業界に大きな変革の波が押し寄せようとしている。次世代遊技機とされる「スマート遊技機」の導入が間近に迫っているのだ。

 スマート遊技機の特徴を簡単に説明すると、メダルや玉に触れることなく遊ぶことができる遊技機だ。スマートパチンコ(略称:スマパチ)は玉を遊技機内で循環させ、スマートスロット(略称:スマスロ)ではメダル自体を使用せず、いずれも電子情報で計測され遊技をする。

 メダルをスロット台に1枚1枚投入したり、台の下皿からドル箱に入れたりする作業、店員さんを呼んで積んだドル箱をジェットカウンターに流す、そんな手間がかからなくなる。また、設置情報や出玉情報といった一連の情報等は遊技機情報センターに送信され、一元的に集約されるのも、これまでとは大きく違うところだ。
その違いこそがスマート遊技機導入の目的でもある。もともとスマート遊技機は、ギャンブル等依存症対策強化の一環として4年前に規則が改正され開発が可能となった。

 スマート遊技機ホール団体執行部説明会の資料によれば、〈「過度な射幸性の監視と抑制」を目的に、「出玉情報等を容易に確認できる遊技機の開発・導入」〉とある。〈射幸性が過度に高まることを防止することで、金額、遊技時間、遊技回数を適正化していく〉そうだ。

〈正確に出玉を把握するために、物理的な遊技球等を使用せず、遊技球等の数を電磁的に記録する〉というのがスマート遊技機だ。その第一弾のスマスロが11月21日から、4機種約7万台が導入される。スマパチは少し遅れて2023年にホールデビュー予定だ。
市場規模が半分に落ち込んだパチンコ業界の栄枯盛衰
 この次世代遊技機は、ギャンブル依存症についてだけでなく、業界が抱えるさまざまな課題にも対応している。

 まず分かりやすいところで言えば感染症対策だ。玉、メダルに触れることがなくなることで感染症へのリスクが低減する。また、玉やメダルの払い出し音や接触音などがなくなり、騒音も軽減されるだろう。分煙とあわせて、パチンコ店の「うるさい・臭い」といったイメージは完全に過去のものになろうとしている。他にも、ゴト行為などの不正撲滅、省エネ効果といったさまざまな課題の改善も見込まれている。
しかしながら、打ち手が最も気になっているはそのスペックだ。どれだけ画期的なシステムを搭載していても、客付きが良くホールが導入したいと思うような遊技機でなければ普及しない。スマート遊技機は専用のユニットも必要となるため、設備投資が一層嵩む。その投資費用を上回るほどの魅力がなければならないというわけで、現行機と差別化を図りスマート遊技機を推進させるために、出玉性能が緩和されている。

 パチンコでは、大当たり確率の下限が現行の320分の1から350分の1となったほか、C時短(突然時短)も搭載された。スロットでは、有利区間(AT=アシストタイム、ART=アシストリプレイタイムの抽選が有利に行われる区間)ゲーム数の上限が無制限となる。いずれも規定の獲得玉数・枚数に到達すると遊技機が停止する「コンプリート機能」の搭載が必須だが、スマパチでMY(最大差玉)9万5000個、スマスロでMY(最大差枚)1万9000枚なので気にならないレベルである。
打たない人にも分かりやすく説明するとすれば、遊技性が向上し、現行機種より出る可能性のある台・射幸性の高い台が作れるようになりました、というところだろうか。

 新しいシステムを普及させるための出玉性能の緩和という流れで、1990年代前半のCR機(プリペイドカード式の機種)黎明期を思い出した方も多いのではないだろうか。当時、不透明だった業界の現金流入額を明瞭化するためにCR機が導入された。その結果、現金機では自粛していた“爆連タイプ”の確率変動が認められ、大人気となりCR機の普及に大きく貢献した。

 その後、業界はさらなる躍進を遂げ、1995年に市場規模30兆円のピークを迎えた。だが、同時にギャンブル依存症や子供の車内放置などが社会問題化し、1996年には高額な遊技料を必要とする「社会不適合機撤去運動」が行われ、以降の規制に次ぐ規制で失われた射幸性はファンの足を遠のかせていった。2020年の市場規模は15兆円を割り込んでいる。