物価高は収まる気配をまるで見せない。12月に入るとボトル入りコーヒーや育児用ミルク、外食のカレーなどが続々と値上がりしていく。この先も食品をはじめ日用品、衣類、電気代……と価格上昇は継続。庶民生活は苦しさを増すばかりだが、“インフレ手当”を支給し、従業員の生活を守る姿勢を打ち出す企業が相次いでいる。

T企業や外食、家電量販

 11月の物価上昇はここ1年で最高を記録しそうだ。11月25日に公表された東京都区部の消費者物価指数(中旬速報値)は前年の同じ月に比べ3.6%上昇(生鮮食品を除く総合指数)。生鮮食品を含めると3.8%に高まる。
「都区部の消費者物価の上昇率は今年2月に1%(生鮮食品を含む総合指数)を超えました。そこから毎月のように上昇幅を拡大させ、4月に2%、10月に3%を突破しています。米国などに比べると低いとはいえ、3%超えは想定外の上昇です。生活がいっそう苦しくなるのは当たり前です」(IMSアセットマネジメント代表の清水秀和氏)
 そこでクローズアップされてきたのが“インフレ手当”だ。業務効率化ソフトなどで知られるIT大手のサイボウズは今年7月に最大15万円の特別一時金を支給。家電量販店のノジマは7月から「物価上昇応援手当」(毎月1万円)をスタートさせた。

外食の「大阪王将」を運営するイートアンドホールディングスや、調査会社のオリコンは10月から“インフレ手当”の支給を開始している。
帝国データバンクが11月中旬にまとめたインフレ手当に関する企業アンケートが話題だ。物価高を受け、すでにインフレ手当を支給していると回答した企業は全体の6.6%で、「予定」「検討中」を含めると、26.4%に達した。4社に1社が従業員の生活を資金面で支える覚悟ということだ。
「物価高騰のなかで少しでも社員のモチベーションアップにつながればよい」(工業用薬品卸売)
「基本給の大幅な増額はできないが、一時金か期間限定での支援は考えている」(成形材料製造)
「食費・光熱費などの負担増は現実問題であり、人材流出の防止策としても実施する予定」(建物売買)

 そんな経営者の声が集まっている。インフレ手当かどうかは別として、何らかの生活支援策を打ち出さないと、社員が逃げ出しかねないという危機感もある。実際、給与アップを掲げる企業が増えてきたことで「転職市場は活発になっている」(東京商工リサーチ情報本部長の友田信男氏)という。
 第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏はこう言う。
「インフレ手当の支給を冬のボーナスに上乗せする形で実行する企業は多いと思います。家計支援を来年度の賃上げで実施するのでは遅すぎる印象があるので、なるべく機敏に反応したいと考える経営者は多いはずです。そのほうが従業員の意識高揚も促せます」
 冬ボーナスの支給が近づくにつれ、職場でのランチや、ちょっとした飲み会でインフレ手当の話題は増える。友人との少人数の忘年会では、「おまえの会社はインフレ手当出た?」といった会話も頻発しそうだ。
「おそらく今後はインフレ手当を出す企業は増加すると思います」(熊野英生氏)
 支給額はどの程度か。帝国データのアンケートによると、支給方法が一時金扱いだった場合、「1万~3万円未満」が27.9%で最多だった。「3万~5万円未満」「5万~10万円未満」がともに21.9%、「10万~15万円未満」は9.1%、「15万円以上」も7.3%あった。平均額は約5万3700円だ。
 一方、月額手当だと「3000~5000円未満」「5000~1万円未満」が30.3%で最も多く、「1万~3万円」は11.8%。平均額は約6500円だった。月額支給の場合、何月まで支給と明確にしていないケースもあり、総額は分かりづらいが、仮に1年間支給が続けば「6500円×12カ月」で7万8000円のアップとなる。

支給しない」企業の言い分

 帝国データバンクのアンケートで「インフレ手当を支給しない」と回答した企業もある。
「インフレで会社の営業収支が悪化しており、まずはそちらの対策が優先と考えている」(建築工事)
「会社自体も電気代などのコストが上昇しており、それら全てを製品に価格転嫁できていないなかで、社員に対して手当を出すことは難しい」(金属プレス製品製造)
資源高や物価高、円安などによって、厳しい経営環境に置かれている企業はたくさんある。そんななかでも賃上げをしたり、インフレ手当を捻出し従業員を支援する企業は少なくない。
年の瀬に向け、インフレ手当を支給する企業は急増してもおかしくない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/de6bf84f2eca0e0d6df541318c608f8573eb8c54?page=2