[ニューヨーク 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米電気自動車(EV)メーカーのテスラはある種の「夢物語」が企業価値上乗せにつながっていたが、今は普通の自動車メーカーという評価だ。昨年終盤に1兆ドルを誇ったテスラの時価総額はそれから半分にまで減少。投資家の関心が、マスク最高経営責任者(CEO)が自動運転タクシーや人型ロボットを生み出せるかどうかよりも、どれだけ多くの車を市場に投入できるかに移っていることがうかがえる。

かつてテスラの時価総額は、2番手以下の10社合計分に匹敵するほど大きかった。しかし株価は年初来で55%も下落している。今年序盤こそ、値下がりペースはゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターとほぼ変わらないように見えたものの、最近の株価の値動きは、ずっと歴史が古くEVの生産が少ないメーカーよりもさえない。

これはある程度納得できる。テスラのバリュエーションは常に、自動車生産という中核事業の価値だけとはみなし難い面があったように思われる。だが主要中央銀行による利上げに伴って、投資家は未来の壮大な計画に対する興味を失った。例えばグーグル親会社のアルファベットの株価も年初来下落率が34%と、S&P総合500種のほぼ2倍に達している。

では市場のテスラに対する今の判断はどういう意味を持つのか。競争激化を受けてテスラがより低価格のモデルを導入し、現在1台約5万5000ドルというテスラ車の平均販売価格が2030年までに4万5000ドルに下がると仮定してみよう。マスク氏がその時点までに年間2000万台という生産目標を達成し、テスラの営業利益率は15%前後に維持されるとすれば、税引き前利益はおよそ1250億ドルとなる。

この数字にフォードと同じ13倍の株価収益率(PER)を当てはめ、さらに将来の利益を現在の価値に換算するために10%割り引いても、テスラの株価は14日の取引水準のほぼ2倍になっているはずだ。つまり市場は、実際にはマスク氏が目標の半分しか生産できないと想定し、「ロボタクシー」や「アンドロイド執事」といった遠大な構想にはもはや何の価値も見いだしていない。

もちろんここから見えてくるテスラの将来像は、ほとんどの尺度から見ればなお大きな成功と言える。昨年のテスラの納車台数は100万台に届かなかった。それが1000万台になれば、トヨタ自動車がパンデミック前の2019年に記録した業界最高水準に並ぶことになる。マスク氏は本当に業界のトップまで上り詰めているだろう。それでも、驚くほどに大きな発想を持つ起業家としては、どこか「後退」の印象を受けてしまう。

https://jp.reuters.com/article/china-trade-expo-idJPKBN2SZ0AI