東京・秋葉原の電気街(千代田区外神田)に170メートルの超高層ビルを建てる再開発構想を巡り、地元家電店などの名物経営者たちが熱い論戦を展開している。「街の再生につながる」「見通しが甘いのでは」と商売論が激突。公費投入や公共財産の区道廃止も絡み、区は今月下旬に、新たに全区民を対象とする説明会を開くことを決めた。アキバの景色は変わるのか—。 (井上靖史)

 電気街の再開発計画 対象はJR秋葉原駅の南西にある万世橋に近い三角形の地区。広さ約1・9ヘクタール。家電量販店が並び、マニア向けの小さな電子部品店もある。開発後は最高170メートルと50メートルのビル2棟からなり、事業費854億円(2021年7月の区資料)。フロアを売却して事業費を捻出するが、事業費の1割は区費が充てられる見通し。公有地を除く地権者は31人。賛同者は6割ほど。都市再開発法は再開発組合の設立には区域内の権利者の3分の2以上の同意が必要とする。翻意する人もいると想定し、8割の同意の確保が望ましいとされる。
再開発構想の舞台は、JR秋葉原駅の南西に位置する電気街の一角。2010年に区が基本構想を作っており、具体化の動きが浮かんでは消えていた。一昨年春から区が都市計画決定に向け、本格的に地元で説明を進めると、区議会に賛否の陳情が続出し、論戦に火が付いた。
 「昭和を引きずった20世紀の街。一刻も早く再開発に着手してほしい」。再開発準備組合の理事長で家電量販店「オノデン」の小野一志社長(69)はこう訴える。「オノデンぼうやが〜」のCMで知られる電気街を代表する店。昨年10月、早急な都市計画決定を陳情した参考人として区議会に出席し、持論を述べた。
 構想エリアを「中央通りのガラパゴス」と呼び、狭い路地や小さな店舗が多いことに「建物の老朽化、治安の悪化、都内の他地区と比べた魅力の劣化」と課題を列挙した。再開発によって神田川沿いの公有地を観光資源の船着き場とし、再開発ビルにフィギュアやコスプレを楽しめるイベント機能も入れたいという。

再開発なら区道廃止、区は全区民対象に説明へ
計画地内の路地。再開発なら、この区道も廃止される=東京都千代田区外神田で

計画地内の路地。再開発なら、この区道も廃止される=東京都千代田区外神田で
 これに対し「大きなビルを建てれば繁盛するのか。都心の一等地でもテナントが入居せず、苦戦を強いられているビルが見受けられる」と反論するのは、再開発慎重派の地権者の一人、石丸俊之さん(76)。石丸さんは「電気のことなら〜」のフレーズで一時代を築いた石丸電気の元社長で、父親とともに約70年間、最盛期には23店舗を展開した。10年ほど前に家電店の経営から撤退し、現在は不動産賃貸などを手掛ける。
 昨年11月、拙速な再開発を懸念する陳情の参考人として区議会に出席し「商売は自助努力が前提。再開発に委ねるのはいかがか」と主張。「コスプレイベントなどもやりたければ今の環境でもできると思う」
 エリアでカプセルホテルやカラオケ店を営む荻野勝朗さん(73)も石丸さんに賛同する。荻野さんは神田駿河台を中心に展開したスキー用品「ヴィクトリア」創業者。「資材価格が高騰する時期の大型建設は自殺行為だ」と疑問視し、事業費が膨らむことで事実上、地権者に負担が強いられるリスクを訴えた。
 一方、区域内には路地のような3本の区道があり、一帯が再開発されれば廃止になる。道に張り付くように小規模の店舗が点在し、「再開発ビルは家賃が上がり、移るのは難しいだろう」とある経営者。こうしたことも背景に、区道の廃止には「区の財産だ。区民全体に説明してほしい」という要望も。区は今月27、28日にあらためて全区民を対象に再開発構想を説明する場を設ける。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/224071